2014-04-13

特集・「ku+」第1号 読み合う 「ku+」の句を読んでみた 杉山久子

特集 「ku+」第1号 読み合う
ku+の句を読んでみた

杉山久子


 一葉づつ鰡の跳びたる光かな  依光陽子

巻頭50句「柱石」より。鰡の魚体から発せられた光を受け取ったその背景は、集合体としてぼんやりとあったのだが、「一葉づつ」と細かくアップされることで、俄然いきいきと存在感を増してくる。葉と鰡のお互いの生命力が照射し合って、一瞬の時間がとどめ置かれたような句になっている。

 穴惑ひ海の砂曳きくさむらへ  〃

一旦浜辺を彷徨った蛇か。海の砂で重くなった何処かかかなしげな体の動きが続く平仮名表記に表れている。

 去年やある裏返したるポケットに  〃

ポケットは半分閉鎖された空間。そこに過ぎ去った時間(わりとぼんやりとした時間)の痕跡を確かめようとする可愛らしさに共感。

 音を送るね草の実入れて封をして  〃

可愛らしいと言えばこんな句も。大きさや形状によって微妙に振った時の音は違うだろう。何の実か想像する愉しさも。

 やっていることは昨日と同じだが汗が凍りはじめた  福田若之

「悲しくもない大蛇でもない口が苦い」より。汗が凍るとは尋常ではない。単調な繰り返しと思っていた日常に違和が生じる瞬間は、恐ろしくもあり滑稽でもある。「唾がつめたい灰色している」も単純で静かで怖い。

 菫すみれいつも走つてゐるわたし  阪西敦子

「ひらひら」より。菫の花を認めたことで、同時に自分の姿を認めた人。地面近くに咲く小さな花と始終動き回っている自分。走っていると言いながら騒々しい感じはしない。平仮名の配分がその動きをふわりと柔らかくしている。自分に向って「くすっ」と言っているような。

 セクシーに投票箱は冷えてゐる  関悦史

「梨」より。「投票用紙の書き味に秋澄みにけり」と、秋の空気の変化を繊細に感じ取った句の後にこの句。およそ無味乾燥な箱としか感じられなかった物だが、これから投票にいく度にこの箱はセクシーか?と考えそう。票を入れる器としての箱に対する「セクシー」と「冷え」の齟齬。票というものの生々しさが顕ち現われてきて愉快。

 黄身すする許可をたまはり卒業す  山田耕司
 
「あなの数」より。どんなシチュエーションの卒業か興味をそそられる。「たまはり」の仰々しさも品のいい笑いを誘う。黄身は君かも、などと思うとなにやら春愁の気配も漂ってくる。

 何か言う秋のTシャツから腕が  佐藤文香

「あたらしい音楽をおしえて」より。やや肌寒さを感じ始めた時期、Tシャツに着替えながら喋っている。何を言っているのかよく聞き取れない。Tシャツを潜って出てきた腕。今ここにある確かな肉体の勁さと可笑しさ。

 秋草の不意に相寄るこゑなりき  生駒大祐

「渚/煙」より。秋草の中をゆく人たちの声か。秋草同士の声かとも。声が相寄る時、物体同士も相寄るのだろうが、そこに薄い光の膜を差し入れることで柔らかな触れ具合が生み出された。ア音とイ音のリフレインが明るさと優しさを添えて。 

 丸顔の人丸顔の人を見る   谷雄介

「父の爆発」より。そんな光景を見ている人は丸顔ではないんだろうな。丸顔同士だから見ていても憎めない。丸顔が動かない。別の形だったら喧嘩になりそう。一読笑え、読み返しても笑える。・・・て、こんなに絶賛するのは自分が丸顔だからかもしれない。

 清長は細くて長しこゑも夜も  高山れおな
 
「ロンドン秋天」より。色々な事に疎い私は、清長も前書きの「袖の巻」もググってみて初めて知った。

一つ前に艶本の句があるが、その様子を長々と描写したのかなと。細々と長く続く声という音と、夜(一夜?)という時間の長さ。儚さと図太さが同居した感じにぐっと来る。

 木犀や水をもらつて白い犬  上田信治
 
「野兎」より。清潔感漂う句なのだが、「水をもらつて」と繰り返す内に、だんだん白さが増してゆくようでなんとなく恐い。この犬はいきいきはしていない。静かに水を貰い、静かに飲んでは静かに眠りにつく。

スケーターワルツいきな り とまる」は一字空けが効いている。


 挑発的な(?)特集に挑発的な(?)皆さんの句に、おしゃれなデザインでいい創刊号になったと思います。

作に論に元気なメンバーの中で、ぼんやり狭いところで句を作っていただけの、紙媒体にもウェブにも疎い私が何故入れてもらっているのか大いに謎ですが、深く追及はすまいと思ったことでした。
 

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