2014-09-14

【週俳8月の俳句を読む】風を受けとめて 梅津志保

【週俳8月の俳句を読む】
風を受けとめて

梅津志保



寝苦しき一夜の明けて蓮の花  遠藤千鶴羽

スーパーひたちに乗り、ビル群の東京を抜け、茨城に入った所で蓮の畑が一斉に広がっていた風景は、私の今年の夏の思い出だ。

暑さから解き放たれた瞬間。

なぜか蓮の花の前では、姿勢を正してしまう自分がいる。


海の挽歌拒むジュゴンの打楽器  豊里友行

アメリカの博物館では「地上で最も凶暴な動物」として鏡が置かれ人間を映し出すということを聞いてから、ずっとその通りだと思っていた。

ジュゴンの優しい目を人間は見つめ返すことが今できるだろうか。

打楽器を鳴らそう、声をあげなければ。


白鳥や風のかたまりひとつ去る  佐藤文香

風のかたまりは、白鳥の大きさ。ひとつ、またひとつ白鳥が去って行く。風を抱えて。
向かうその空はきっと青空。

私の心の風もひとつ去り、晴れやかな気持ちになる。


名をしらぬ犬と吹かれてゐる風に  小津夜景

隣り合わせた犬と風に吹かれる。そこに来る運命であったのだと思う。

その瞬間をただの偶然と思うか、必然と思うか。

必然と思った時から、豊かな時間が私の中に流れ出す。

第380号2014年8月3日
宮崎斗士 雲選ぶ 10句 ≫読む
第381号2014年8月10日
遠藤千鶴羽 ビーナス 10句 ≫読む
豊里友行 辺野古 10句 ≫読む
第382号 2014年8月17日
佐藤文香 淋しくなく描く 50句 ≫読む
第384号 2014年8月31日
竹内宗一郎 椅子が足りぬ 10句 ≫読む
司ぼたん 幽靈門 於哲学堂 10句 ≫読む
江渡華子 花野 10句 ≫読む
小津夜景 絵葉書の片すみに 10句 ≫読む

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