19 仮面 中村清潔
洞窟の画は初夢に狩りしもの
潜水艦浮上初凪待たずして
初明り烏帽子海鼠を照らしけり
食虫植物睡りゐる淑気かな
仙人掌に一番水を遣りにけり
弾丸とすれ違ひしか春疾風
ホルマリン漬のいろいろ涅槃雪
落下音幽かなる辺の椿かな
地下広場にて初蝶の話など
目醒めよと呼ぶ声ありし蝶の昼
海市なき海をみてゐる海馬かな
知恵熱の頃なつかしや鳥帰る
龍天に登ることなき帝都かな
復活祭明けたるまちの鳥瞰図
明日こそは二足歩行を青き踏む
草を食み草に夢みて聖五月
種のなき実を口うつし桜桃忌
純白の帆をかなしめり皐月波
鵺の眼のなかにあるべし青山河
蛍籠吊るしてわれら木の国に
塩壺に一塊ありし半夏生
なめくぢら塩撒く民にふりむかず
乙女座に爆発ありや巴里祭
仮面舞踏会(マスカレード)ひとり裸を赦されて
蚊喰鳥ひるまの月をほめながら
蟻一匹行方しれずの遺髪とや
蟻地獄この世の果ては明るしと
白亜紀の崖下をいまの片蔭に
みづうみの秋は波打際で待て
天球儀つめたき秋のはじめかな
鷹柱それでも地球まはりけり
大隕石孔のうちなる穴惑ひ
かくまでも霧深し開眼せよと
鬼門ありあらゆる桃に指の痕
少年と美少年あり雁渡し
無重力体験ツアー神の留守
木星に近き山より枯れゆくか
極月の枯山水をわたくしす
十二月八日ひとりの無菌室
祝婚の食べあましたる牝鹿かな
山火事を起源としたるひと皿を
窓といふ窓の氷柱を折る音か
熱燗や移民の歌をききながら
冬銀河明日は長距離走者かな
日当たれば日当たるほどに恵方道
伊予訛り桶を鼓の初湯かな
生命線大河の如し若菜摘む
涅槃絵図よりも小さな庭に出て
国褒めの声北窓をひらきしや
野外劇大団円のころは東風
2014-11-02
落選展2014_19 仮面 中村清潔 _テキスト
登録:
コメントの投稿 (Atom)
1 comments:
目醒めよと呼ぶ声ありし蝶の昼
バッハのカンタータと、胡蝶の夢。夢から現へ引き戻すのは神か仏か。不思議な春の昼。
知恵熱の頃なつかしや鳥帰る
年を取れば知恵熱が出ることはなくなるが、知恵がついているとは限らない。むしろ面倒なことを避ける悪知恵がついてしまっていることも。ひたむきだった昔を思う。
十二月八日ひとりの無菌室
十二月八日は無原罪の御宿りの日であり、太平洋戦争開戦日でもある。ひとりの無菌室に生まれるのはなにか。
なにげない光景を詠む中に、自然や哲学への関心が見えてくる。
コメントを投稿