22 弔ひ 三島ちとせ
弔ひの儀式狼から倣ふ
大寒の花束火葬する決まり
鰤起し駐在さんと居る園児
裏面に粉雪溶けてゐる割符
毛糸玉安楽椅子へ転がりぬ
春草の冠電話越しに編む
雑踏にペンギン一羽春の風邪
花鳥や戦艦去りし港町
風船や海原のある紙芝居
紅梅の嘘より寓話始まりぬ
蝶が吸ふ蜜を密かに摘んでゐる
春の空庭の果てまで漁網干す
伊予柑を拾ひて向かふ操舵室
春の宵缶詰で呑む漁師小屋
花弁一枚から静脈血の匂ひ
すみれ草式場にある車椅子
より苦きクレソン添へる銀の皿
無断欠席はさへづりのせゐにする
陽炎や家畜オスより入れ替へる
殺処分終へて一服花の冷
花冷えの薬しづかに飲み込めぬ
練香の蜜より燃ゆる復活祭
イツカクを祀りし海へ彩卵
骨盤の高さに躑躅咲いてゐる
水葬の手筈整ふ鳥曇
近道の麦畑抜け慰霊祭
夏の蝶幕間に切り絵披露せり
夏雨や女優の臍にピアス痕
夏来る床へ現像液ぽとり
書生服飾りし下宿月涼し
弓を弾く数多の星座麦を踏む
酋長の名前冠したバナナの木
タロットの占ひ通り蛾が孵化す
百合の花聖書巻末より捲る
青梅煮る明日は万国博覧会
海の在る惑星生まれ黴の花
恋文を出す一呼吸日傘差す
美しき蟹座の爪や夏座敷
海の日やオセロ互ひに黒を取る
手花火や世界が終はるとの噂
海底の呼吸炭酸水のやう
故郷は集合団地秋の雨
レコードを抱へ嫁入り秋黴雨
二百十日付英国より紅茶
銀色の折り鶴納め秋祭
鶏頭花海岸線に船の墓
木星に似る喉飴を舐めて秋
紅葉かつ散るthank you for listening.
高熱の林檎ばかりを陳列す
匿名の私小説読む暮の秋
2014-11-02
落選展2014_22 弔ひ 三島ちとせ _テキスト
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2 comments:
骨盤の高さに躑躅咲いてゐる
つつじの花の小ささが、なにか器官を思わせるのか、つつじとどくろの字面が似ているせいか、なんか面白かったです。
全体的には、観念も想像力も、もっともっと、耳から血が出るくらい、働かせることができるはず。物足りないです。
裏面に粉雪溶けてゐる割符
雪の中、割符を運んできたのだろう。一体どういう状況だろうか?なにかが動き出す不穏さと雪の日の静謐。
骨盤の高さに躑躅咲いてゐる
あえて骨盤の高さを意識することは少ないと思うが、そこに何がしかの生命を意識したのだろう。並び立つ躑躅。
高熱の林檎ばかりを陳列す
風邪の高熱に苦しむ時、林檎ほど癒される果物はない。一方、熟れた林檎は熱に浮かされるように真っ赤だ。
さまざまな弔い。畜産に関する句があり、世界の終りも詠まれている。命に対する郷愁の趣がある。
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