25 モラトリアムレクイエム 吉川千早
薄氷を食んで笑っているやふに
花満つや屋上の柵踏み越えむ
傲岸な仔猫の如くハイヒール
オーバーザレインボー服薬死ぞ
蝶々を縫ひ止めておく袱紗かな
花野にて死因問ふ人振り払う
弔問へ旅立つ月の列車かな
人生にカレー幾たび半夏生
水底の足の遠さや盆休み
男装の麗人混じりお菜洗い
水澄むや紅きスカート餞別に
酒瓶に手錠をかける星月夜
オリオン座傾くまでの立ち話
生地厚きコートの奥の月状骨
太陽を憎むふりして菜花喰ふ
花茣蓙や出自怪しき女の童
シャボン玉の下にて髪を切られけり
帽子にはニセアカシアの花詰めよ
マニキュアの塗りあいっこや夕涼み
膣奥に美しき爪黴の花
屋上は立入禁止月見酒
味噌煮込海豚皮付秋の風
寒卵カルボナーラを愛おしむ
桜桃忌君は悪所へ出勤す
耶蘇神の役にダメ出す裸足かな
ごきぶりを初めて見た日煙草吸ふ
母の日に土を知らない猫欲す
鍵穴に鍵置いてある桃の花
首だけの花をかずらに卒業日
新社員スーツの裏地真紅なり
呉服屋の帳場の裏の昼寝かな
三月や職員室のミルクティー
秋雨や祖父は死んでも大男
大叔父と骨壷隠す夏の山
粉を吹いて祖父は微睡む花林檎
焼きたての骨灰を待つ春の雨
仲人に素足曝して挨拶す
北限の檸檬の街に嫁ぎけり
健全な夫健全に蛇千切る
蟋蟀や胎児しゃっくり百万遍
臍帯は旨そうである良夜かな
破水して野分の庭に出でたもう
新生児抱えて迷う春の街
タンポポの絮を舐めたきクピト像
我が乳を諸手に受ける薄暑かな
子を産めばママと呼ばれて聖誕祭
初日差す乳含ませて眠りたり
蛍や友の遺影を焼却す
葱抜きに走る夜の身の軽きこと
ふらここを下りぬ死者への鎮魂歌
2014-11-02
落選展2014_25 モラトリアムレクイエム 吉川千早 _テキスト
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2 comments:
俳句に、穂村弘さんの言うところの「魂の比べっこ」のリングを立ち上げようというチャレンジ。
心意気は買いますが、もうちょっと基礎練が必要だったんじゃないか、と。
男装の麗人混じりお菜洗い
宝塚の男役のようないでたちで菜洗いをしている光景が浮かんで面白い。実際にはラフなジーンズ姿といったところだろうか?それもまた魅力的である。
秋雨や祖父は死んでも大男
老人のなきがらは概して生前より小さくみえるものである。それでも大男の祖父に、積み上げた人生の迫力が見て取れる。
葱抜きに走る夜の身の軽きこと
夜に葱を抜きにいく。なんとなく背徳的な気分になる。誰も居ない夜の畑で思わず解放感を感じてしまう。
タイトルにもあるが、なにかの終わりを感じさせる句が多い。それは一方でなにかの始まりでもある。
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