4 魂の話 大中博篤
Ⅰ リボルバー
人死んで煤煙の街花だらけ
暗闇に明日を見つければ 花火
止まらない震えや 祭りの音がする
溢れゆく梅雨の匂いや犬が死ぬ
診察を待つワラビーよ夏の果て
短日の駅に獣の影映る
ひたひたと鬼に成りゆく寒さかな
北風や目をつむりつつピアノ焼く
歩くたび世界が揺れる 冬至かな
悪霊や同じ台詞を繰り返し
休日のサラリーマンの手首かな
Ⅱ ジャンキーと犬
コカインの王国立ち上がる五月
黄昏の夢魔コカコーラ飲みほしぬ
〈山を焼く〉僕が傷つかないように
炭坑を吹っ飛ばしてる日の〈カンナ〉
悔恨が俺を追い抜いてゆく聖夜
狼に真昼の匂い 雨激し
風花や 犬を喰ふ犬見ておりぬ
迷宮の路地埋め尽くす鴉かな
虎の檻閉園のベル鳴り続け
手袋の中は暗黒 犀通る
Ⅲ 戦争と戦争
もののけの神社にうずくまる四月
旧寺院裸者の懺悔の音静か
蜻蛉の一斉に死ぬ神の杜
夕立去る大使館から血の気配
鱶の喰ふ肉赤々し夏の雨夜
風死して戦夢見る少年よ
ゆふなぎに 永遠に 祈る 聖母像
林葬や葬列の背に浮かぶ汗
はつなつの銃の全き冷たさよ
花芒 人美しく滅ぶベし
子守柿 戦艦一日掛け沈む
凍る湖戦車砲塔だけを出し
生剝ぎの獣の蒼き瞳かな
ヒトの血を浴びて眩き少女かな
Ⅳ チアノーゼ
走っても走っても街 春終わる
八月のまどろむ街の雑役夫
十月や花売り少女に花溢れ
また名前呼ばれて冬の商店街
焚火する男は清々と聖歌
飢えている 終点近きバスの中
Ⅴ「そうして」、と彼女は言った
憎しみは悲しみになる 春の雪
夏の果て密入国の船行けり
ラグーンにペンギン眠る午前二時
日盛りに青年が買う月と銃
かみさま、と少年祈る 雪激し
冬さうび抱かれて白き息となる
冬の雨遠くに紅き傘回る
グラビティ•ゼロ殖えてゆく蟲の群れ
街に海鯨が鳴いている 泣いて
2014-11-02
落選展2014_4 魂の話 大中博篤_テキスト
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1 comments:
診察を待つワラビーよ夏の果て
ワラビ―はどういう状況で診察を待っているのか?動物病院なのか、草原なのか、あるいは待合室に座っているのか。夏の果てには何が起こっているの だろうか。
休日のサラリーマンの手首かな
休日のサラリーマンの手首には腕時計がないのかもしれない。休日にまで時間を気にしたくないのか。いや、あるいは手首はサラリーマンの元にあるのかどうか。
ゆふなぎに 永遠に 祈る 聖母像
多行を思わせる空白が、映画的なフラッシュバックを感じさせる。あえて演出過剰なのも悪くない。
安倍公房を思わせる不条理ハードボイルドな世界、ある意味懐かしさすら覚える。ここに洞察と諧謔が加われば強い武器になる。
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