2014-12-07

2014石田波郷賞落選展 8 辻本鷹之 はばたくもの テキスト

辻本鷹之 はばたくもの

駅弁に箸をみつけて春の海
多喜二忌の顔を突つ込む麺の鉢
残雪の里を離れる青年よ
魚死して春水は寄りそひてをる
つばくらめ待ち合はせして一人なり
春コート畳みてひざにおさまりぬ
霾や渋滞はジグソーに似て
うつくしき頭の並ぶ卒業歌
春の夜の地下は管だらけのことよ
休館を聞きて長閑の残りけり
一日といふうたかたや石鹸玉
湾岸に倉庫のごつた春霞
かざぐるま根本をきつく握りしめ
四月馬鹿スーツになれぬ身をとほし
膝頭かがやいてをり入学児
春の芝はばたくものをくすぐりぬ
春昼やパスタの鉢の底に湖
囀りは竹の籠より樹間より
掃除機の影の象めく春憂ひ
縁側の大気は重し猫の恋


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