2015-04-19

【句集を読む】脈絡を崩す 武藤雅治『かみうさぎ』の一句 西原天気

【句集を読む】
脈絡を崩す
武藤雅治かみうさぎ』の一句

西原天気



「はがき」に、近況や用件を書き、宛名を書いて、(官製はがきでなければ)切手を貼る。投函する。貰った人は字を眺め、消印に目が止まったりする。「はがき」はとても暮らしに近く、人に近い。

まっさらの「はがき」もまた用途の未来が見えるので、暮らしに近く、人に近い。

それに、あの大きさがよろしいです。てのひらから少しはみ出すくらいの。

いちまいのはがきもこがすふらいぱん  武藤雅治

「はがき」が置かれた脈絡(書いたり投函したり貰ったり)から、ずれて、ふらいぱんで焦げていくはがき。何か書いてあるのか(使用済み)、書いていないのかはわかりませんが、なんだか奇妙な事態が進行しています。

脈絡は前提と言い換えてもいいのだけれど、繰り返され、わたしたちの了解事項となった事態の流れ。それとは違うことが起こる。これは、俳句的(あるいは川柳的、あるいは詩的?)驚きのひとつの基本パターン。

この崩し、反転、逸脱の効果は、手順の複雑さに正比例しない。あっさりとシンプルな技でも大きな効果を生むことがあります。

掲句はその一例。はがきを書くのでも貰うのでもなく、フライパンで焦がすだけで、おもしろいことが起きる(というのは現実界ではなく、わたしたちのことばとイメージの界面のようなところで)。

テーブルをひつくりかへす檸檬かな  同

この句も、つくりはシンプルですが、興趣。


句集から気ままに何句か引きます。

もみぢしていんちきとなる大和かな  同

空き缶のやうにうなづく頭蓋かな  同

人参や牛蒡や家の光かな
  同

水のなか水が流れて秋の川
  同

どこからか馬のにほひのする五月  同


なお、作者はこの句集に収めた句について、川柳とも俳句とも言っていません。

川柳なのか、俳句なのか。それは読者にとって、作者にとって以上に、どうでもいいことです。

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