5. 青山青史 「死海」
秋風や平家贔屓のひと抱かな
かへりゆく風に吹かれて吾亦紅
水攻めの城いづるかな水の秋
閻魔蟋蟀夢なきころは殺めけり
隣家より生きて帰りし良夜かな
新世界よりはるばると月夜茸
来し方の子らの行方や瓢の笛
幕間の幕のむかうの秋の声
血液のすさまじき型花文字に
蔦紅葉エスペラント語の達人
いつのまに蔓は縺れて火恋し
黒塗りの唇凍てよ出アフリカ
死海へのみちを鎌鼬にも馴れ
海豚抱くほかなき海の青さかな
黒薔薇を笑ひしのちの懐手
塞ぎたる北窓と仮面の指紋
天井画なる汝とわれ冬籠
あとずさる猿に後光を大旦
厄の年女礼者を恋ひにけり
鬼やらひ声あるものに瘤ありて
魚のなかの魚氷に上るあはれかな
冥王星からのひかりを涅槃絵図
男装の従妹のために春焚火
海女擲てば拳のなかの桜貝
野遊びの顛末をこそ懺悔室
永世中立を誓ひし遅日かな
戦士の休息南方系の蝶放ち
初蝶に逸れし蝶の如くあり
桶狭間生まれの桶と白魚かな
雁風呂にむかし射られし男かな
壺焼や天衣無縫のきのふあり
天をさすみぢかき指や端午の日
浜ひるかほ猿人の日は溺れけり
海亀を鳴かせてきしと巫女たちは
月面の海しづかなる鵜舟かな
青芒原をかけ抜けても鬼面
蟻登りやすき裸を哀しめり
蟻地獄踏みしだきつゝ蟻塗れ
惑星の此処に幸あり蟻の塔
炎天や縄文土器に縄を巻き
かの音は滝かの音はつくり瀧
籐椅子や特許許可局廃墟とし
虹を指さすたび喜びの世界
生身魂らしくもありし刺青かな
氷山の高きに登りゆけば鬚
小鳥来るおほきな鳥は地上絵に
豊年のてのひらの実は海彦へ
背の順に海よりいでし菊日和
妻恋し菊人形に菊を挿し
妻籠めに霧あるかぎり霧ヶ峰
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■青山青史 あおやま・せいし
愛媛県松山市生まれ。無所属。
2015-11-01
2015角川俳句賞落選展 5 青山青史「死海」テキスト
Posted by wh at 0:53
Labels: 2015角川俳句賞落選展, 青山青史, 落選展
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