2015-11-01

2015角川俳句賞落選展 11 加藤絵里子「ものの芽」テキスト

11. 加藤絵里子 「ものの芽」

春めいて靴紐はらりとほどけそう
麗らかなオルガンの中みちなりに
春雲をつかんでみたくて平泳ぎ
傷口にかるい足取り月朧
水温む銀河系とは素数かな
足踏みや菜の花畑に溶け込んで
春風はモルヒネのように夜行列車
春浅し朗読用に椅子ひとつ
擦り切れた背表紙ならび雨水かな
アンダンテ擦りガラス越しにヒヤシンス
ふらここのエメラルド色の空回り
ものの芽や白色の画廊駆け抜けて
春を読みさして海までささくれる
余寒かな餡パンには触れられず
春寒やカラメルソースを一垂らし
春昼の斜め横断にてすれ違う
桜蕊散る都心部の車輪たち
卯の花腐し細切れの弾力
宙吊りの摩天楼にて春の雨
ふれはばの軸の広がりゆく晩春
晩春の甘皮むいて砂の中
初夏よスタッカートの連綿と
夕凪に背骨の生える心地して
造形はどれも似ていて木下闇
夏の虹セピア色を探り当て
夏草の見えない影に踏まれをり
白南風や出口の見えない海の中
織り込んで鏡写しの若葉風
空想はスクリーンを泳ぎ青嵐
四分音符てんとう虫を掬い上げ
梅干しの苦手な人の背中かな
つま先へ広場駆け抜け夏立ちぬ
夏雲や吹きさらしの鍵盤と
新樹光台形の余裕ゆるやかに
月光の固まるまへの膨らみよ
新月や切れ味試す多面体
きつつきや詩は詩のままで積み上がる
みみずくの母語をあやしている途中
いつやらの風 不意にぼくと冬木立
風花に問われてみれば椅子に居て
波は波へささやいていて寒林は
冬日向反射神経なめらかに
冬麗に象形文字の割り出され
外套を羽織って橋の途中まで
青葉ずく白線の内側に人だかり
青葉ずく下町の和音ききつけて
浮寝鳥名曲ジャズを口ずさみ
関節に冬日をこぼしカルテット
星瞬く自分の靴をはいてをり
夕暮れに染められているサキソフォン






加藤絵里子 かとう・えりこ

「山河」俳句会にて俳句を始め、今年で7年半に。ふだんは都内の大学院にて日本近代史を研究。

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