2015-11-01

2015角川俳句賞落選展 16 吉川わる「アディオス」テキスト

16. 吉川わる 「アディオス」

看板の白く潰され春の風邪
初雲雀北半球に磁場乱し
声のみを聞きすれ違ふ春の山
プラタナスらせんとなりて芽吹きけり
通勤や流るるさくら来る桜
おとなしく傘たたまれて花の冷
父さんと母さんの留守雀の子
雨過ぎて離陸始むるさくらかな
饅頭(まんとう)のかたちほころび花水木
小さき花と思へば開き花水木
黄金週間鳥の喧嘩を止めにけり
少年は塀ふはり越え豆の花
図書館の本に色あり更衣ふ
枝々に四十雀の子隠れけり
グランドの四隅に内野夏つばめ
桑の実や紫に染む鳥の糞
黙黙と天ぷら食らふ夕立かな
空を飛ぶ子どもの写真夏の霧
滑空に憧れのあり秋立つ日
アディオスは別るることとつくつくし
不揃ひの楕円のタイル盆の月
長き夜や水兵リーベ僕の 船
鉄棒の匂ひ残るや曼珠沙華
言ひ訳をしてゐる秋の阿修羅像
一粒の地球みどりの葡萄かな
振り返り足の裏見む星月夜
まつすぐに猫失せてゆき虫の闇
地下足袋のコーラスの行く十三夜
秋の灯や風呂のものみな当たりよく
金属音纏ふ少年冬の鳥
裸木の大いなる輪を持ちにけり
網棚にねこのゐるらしクリスマス
数へ日や窓に貼られし物の影
耳の穴きれいに見えて春着かな
透きとほり溶けてゆくなり雪兎
太ももの外側ほぐし冬の虹
大寒にサムといふ名を付けにけり
だんご虫発見の報寒明けぬ
少年は本の名を知り梅の花
春風や解体工事始まりぬ
穴掘りの半身浮かぶ春野かな
三月や遠くテニスのラリー見ゆ
窓に残る指の形や春の雪
うつ伏せに寝る人とゐて鳥帰る
物思ふ翼ありけりつばくらめ
車両基地に照らされてゐる桜かな
一枝の花咲きおくれ散りおくれ
まだうまく回らぬ首や雀の子
手を振りし後春愁の残りけり
紅を放し蘂降る桜かな



■吉川わる  きっかわ・わる
1965年生まれ。「都市」所属。 

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