【句集を読む】
月とカタツムリ
浜田はるみ句集『韻(ひび)く』の一句
西原天気
幼い頃の田舎暮らしで、カタツムリは、この季節、いたるところにいた。オトナになれば見下ろす視点だけれど、子どものときは違う。紫陽花や井戸にいるカタツムリは目と同じ高さ、目の前にいるのだ。
動きが遅いので、凝視の時間はたっぷりある。私は、殻よりも肉の動きに目を奪われた記憶がある。むにむにと、それは他の何者にもない動きに見えた。
かたつむり月に呼ばれて上りをり 浜田はるみ
美しい景色。
このカタツムリは、中距離から見る一粒の小さな巻貝ではない。じゅうぶんな近距離から、肉と肌の動きがつぶさに見える。ゆっくりと上っていくその動作を司るのが「月」という天体であるという捉え方は、幻想的ではあるが、それほど非現実的ではない。月がひとつ地球の近くを旋回している不思議と、カタツムリの肉と肌が「あのように」動く不思議は、かなり近い関係にあると思う。
浜田はるみ句集『韻く』(2016年1月/本阿弥書店 )より、他に何句か。
星屑となるまで鯨啼きにけり 同
家計簿をひらく銀河の片隅で 同
大寒や枕に耳の置きどころ 同
2016-06-26
【句集を読む】月とカタツムリ 浜田はるみ句集『韻(ひび)く』の一句 西原天気
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 comments:
コメントを投稿