【句集を読む】
鉱物の時間・虹の時間
篠塚雅世句集『猫の町』の一句
西原天気
鉱物を山に眠らせ春の虹 篠塚雅世
金銀銅、鉄から石英やらダイヤモンドやら、じつにさまざまなものが鉱物の範疇に含まれるにもかかわらず、鉱物と聞いて、うつくしい結晶を想像したのは、「虹」効果かもしれません。
この句がしっくりと心に響くのは、すくなくともふたつの対照が、しっかり構図化されているせいです。
ひとつは、高低(空と地底)の対照。もうひとつは、時間の長短。とても鉱物のとても長い睡眠時間とすぐ消える虹。
ところで、「眠らせ」の行為者にも思いを到るのですが、これは、神と解しました(もちろん広義の神)。「春の虹が」と解することもできますが、それにしても神と密接。《虹二重神も恋愛したまへり 津田清子》もありますし。
神の視座を俳句に持ち込むことの是非を言挙げする人もいますが、「私」という狭隘なシロモノがうまく消え去ったとき、往々にして神の視座のみが残ったりします。だから、オッケー。
掲句を収めた句集『猫の町』(2015年8月/角川書店)から、他に何句か。
白鳥の餅のごとくや田に憩ふ 同
これはピースフル。
裏口に煙草吸ひをり年の暮 同
煤逃ですね。
一本で買ふ鉛筆も人参も 同
1ダースで、数本で得るよりも、尊くキュートに思えてきます。鉛筆も人参も。
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なお、掲句から、ロジェ・カイヨワ『石が書く』(1975年1月/新潮社)を思い出して(内容が関連するわけではありません。なんとなく思い出したのです)、ページを繰りました。虹そのものは見ることができませんでしたが、鉱物がうつくしい。
2016-06-05
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