【句集を読む】
寝苦しい夜の扇風機
嵯峨根鈴子句集『ラストシーン』の一句
西原天気
羽根のなき千夜一夜の扇風機 嵯峨根鈴子
羽根のない扇風機は、これですね(≫画像)。2009年発売ですから、2016年の世界に住んでいる私たちは、これを思い浮かべる。
ところがほんの10年前だとどうでしょう? この句にある「羽根のない扇風機」から受け取る像は、(現実的に)分解途中あるいは製造途中の扇風機、あるいは(幻想的に)この世に存在しないシュールな扇風機。時代というはおもしろいものです。
一方、千夜一夜物語はご存じのとおり古い寝物語。
いまもむかしも夏の夜は寝苦しい。シェヘラザードがせがまれて語った寝物語から、長い時間が経過して扇風機が生まれ(電気扇風機の誕生は19世紀後半だそうです)、さらに羽根のない扇風機が生まれた。
暮らしというのは、大きく変化してきたのか、それほど変わっていないのか。それは、もう、よくわからないな、と、この句を読んで思いましたよ。
掲句を収めた句集『ラストシーン』(2016年4月/邑書林)から何句か。
まくわうり名古屋に充電いたしたる 同
鬼太郎の母の名知らず雲の峰 同
かまきりに押されて昼の港まで 同
かもしかの陰のすずしき星座かな 同
2016-06-05
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