【みみず・ぶっくすBOOKS】第12回
ジャン=レオナール・ド・ムロン & フレデリック・ル・ルー・デルペッシュ『魔法の鍵』
小津夜景
この夏、とても繊細な古本に出会った。アコーディオンの形をした『魔法の鍵』という句集だ。著者のジャン=レオナール・ド・ムロンはさまざまな困難をかかえる子供たちの保護や支援をおこなう公益協会で働く人物。共著者のフレデリック・ル・ルー・デルペッシュはアーティストで、本書のヴィシュアル面を担当している。
この本について著者みずからがこんなことを語っている「魔法の鍵というのは俳句のこと。絹地のように繊細で肌触りのよいこの詩型は、空に浮かぶ雲に似て、わたしたちの想うかたちに姿を変えてくれます。人生をさみしいと感じる時でも、この鍵があれば扉はひらくのです」。
24 x 18 x 2 cmで24ページ。定価22ユーロ |
アコーディオン型の中身が出てくる。 |
全部で24ページしかないこの句集、収録句はわずか12句。以前このシリーズで取り上げたアレックス・ドラヴァン『H24/24のHAIKUで語る24HOURS』 よりずっと少ない。またさらに凄いのが本書の対象年齢。なんと2-3歳から大人までなのだ。2-3歳の子供でもわかる俳句とはすなわち次のような境地である。
《あめだま》
ポッケにひとつ
おくちにひとつ
しあわせね
《きょうりゅう》
かいぶつが
食べようとする
おともだち
素敵でしょう? まだまだ良い句がいっぱいあるけれど、なにしろ12句しかないので引用しづらい。すごく残念である。
それにしてもこの本、幼児の読むものとしては作りがずいぶん繊細。が、調べてみるとこのアーティストの「立体本」としてはどうやら素朴な部類のようだ。下の写真は「FREDERIQUE LE LOUS DELPECH」から。
『庭』 |
『心の中心に』 |
こんな感じ。3つめの本くらいになると大人でも間違って壊してしまいそうである。
どうしてこの二人が『魔法の鍵』でコラボレーションすることになったのかは分からない。だが互いの息のあった句集なのは間違いなく、とても自然で読みやすかった。最後に出版社みずから『魔法の鍵』を紹介した動画を添える。わたしの写真よりずっと造本が詳しいので、どうぞご覧ください。
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