【句集を読む】
食べることの健やかさ
大木あまり『遊星』の一句
西原天気
食べることには本来的に「健やかさ」が備わっていると信じるものであります。その確認/実感の背景、まさに経験として「食べる」ことを除いての背景にあるのは、さまざまな食にまつわる言説、すなわち例えば美食から健康食・食育といった文化流行、さらには飢餓に関する政治学的・社会学的知見などよりも、むしろ、次のような句。
青空に雲のとどまるおじやかな 大木あまり
大きな風景をのびやかに叙述してのち、食べ物へと句が収まる。このかたちは、句集『遊星』において、ほかにも見つかります。
晴れわたる東京にゐて柏餅 同
江の島はときどき雨や焼栄螺 同
いずれも、叙景にとりたてての彩や機知はない(それらはしばしば、ある意味姑息で、自然物の気持ちよさを損なう)。
空(そら)があり、何かをおいしくいただけるくらいは健やか。この世に、それ以上に望むものなどないのかもしれません。
大木あまり句集『遊星』(2016年10月/ふらんす堂)
2017-01-01
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