【週俳6月7月の俳句を読む】
遠足と違背
曾根 毅
遠足や高井戸工場ピクルス担当 高橋洋子
遠足の行き先である高井戸の、惣菜パンか何かを作るライン工場。ピクルスの挟み込みやパッキング作業を体験的に担当しているといった光景だろうか。懸命に仕事に向かう子供の姿は、可愛らしく微笑ましい。ラインの担当者として、業務姿を遠足の子供たちに見られているという視点もあり得るが、いずれにしても、春の陽光が景色と心理を優しく照らしている。
高井戸は東京都杉並区の地名だろう。地名の由来は諸説あるようだが、かつて高井家が代々宮司を務める神宮寺があり、目印となる堂に不動明王が祀られていたことから通称「たかいどう」と呼ばれ、周辺を指す地名で使われるうちに転じて「たかいど」となったというのが定説らしい。
工場には近代化や労働にまつわるドラマ。ピクルスは酢や塩、香辛料などの味覚とともに西洋の漬物としてどこか謎めいたところがある。「ピクルス担当」というユーモラスな響きは、この句の明るい印象を決定づけている。遠足はそれらのイメージを内包し、自身の経験を負荷して膨らんでゆく。
守宮搗く兄のまたたくまの違背 竹岡一郎
幼き日、兄が守宮を棒の先で押し潰して見せた。このことは兄の不気味な一面を印象付けた。違背は「遺灰」や「位牌」に音でつながっていて、死をもって違背してしまったというような兄に対する遣る瀬無い思いと、最後には兄の存在が小さな遺灰(位牌)に落ち着いたという物の変容に連結している。
いずれ自分も同じように違背してあの世へ向かうのだろうか。兄と私の距離感、潰された守宮、それらの在りようが一句の中で反駁しながら重なり合っている。
第535号
0 comments:
コメントを投稿