【句集を読む】
てのひらの愉悦
大野泰雄句集『へにやり』
西原天気
おとなが一人通り抜けられるような煙突が家の屋根に付いているなんて見たことなかったし、もしあっても、きれいな赤い服が煤だらけになってしまうだろうに、と、子供心にも思っていましたよ。いや、サンタクロース来訪の件。
工場街ならいざ知らず、街で大きな煙突といえば、それは銭湯でした(いまはもう少なくなってしまいましたが)。
銭湯に煙突のあるクリスマス 大野泰雄
その期間、商業地区なら聖樹に電飾をまとわせて、浮かれ気分を演出するのですが、銭湯が残っているような古い住宅街にはでは、その日も、銭湯の煙突がのほほんと立っている。12音までは何のことはない風景が下五の「クリスマス」で一気に飄逸。
大野泰雄句集『へにやり』には、飄飄、軽妙、洒脱な句が豊富。ネジが一本抜けたような、書名どおり《へにゃり》とした句が多く、うれしくなる。
ほか、気ままに何句か。
夏来るぐるんと蛸が裏返り 同
素うどんの沈みし麺や葱浮きぬ 同
腿と股寒中罷り通りけり 同
蟻蟻蟻蟻を纏ひしもの動く 同
●
造本・意匠が個性的。A6判の掌サイズ。本文わずか36頁をホチキス留め。句集名を記した赤い封筒に入る。本文は、美濃瓢吾氏(著者・大野泰雄氏の友人)の筆。句を盛る器もまた軽妙洒脱。手にして愉しい句集。
2017-11-12
【句集を読む】てのひらの愉悦 大野泰雄句集『へにやり』
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