ハイク・フムフム・ハワイアン01
新年、マイナのなきごえより。
小津夜景
ハワイの人々も同じようで、さっきたまたま『日布時事』1908年1月3日号をひらいてみたら、正月早々第一面で「俳諧阿ほう帳」と題し、日本に住んでいても各地の気候や習慣によって同じ句が良くみえたり悪くみえたりするのに、ハワイで詠むとなった日には、そりゃあうんぬん、などとパワフルに論じられていた。曰く、
《更に一層面白いのは布哇(ハワイ)の俳句だ。観来れば奇想天外ともいふべき配合ばかりを捉へることが出来る。イヤこれが慥か自然だから仕方がない。此の面白い処にをつて、ヤレ季違ひの歳時記がどうのといふて、力めて自然を抹殺するものがあるのは何たる不了見だろう。そんな人は活気ある俳句などを学ぶよりも死んでしまつたがよい》(病明々「俳諧阿ほう帳」より。原文は句読点なし)
とのこと。ノリノリです。で、実際の活気ある俳句とやらを見てみると、
元朝の珊々(さんさん)と鳴る簾かな
銀盤に氷を盛らん屠蘇の酔
二タ処蚊遣を据へてかるたかな
年礼や浴衣さはめく市の様
おお、予想に反して浪漫的! 元朝の簾とは、なんと典雅な。いいですねえ。蚊遣りにかるたの配合も、いとをかしきかな、の妙感。浴衣で年礼をかわす様子は、うきうきとしあわせで、しかもちょっぴりせつない。そうそう、ハワイならではの正月の季語をつかったものといえば、
コーヒーの梢明るし初マイナ 西本貞子
初マイナ起きよ起きよと鳴き立てる 片野耕村
こんな句もある。マイナはハワイのどこにでもいる鳥で、きょろきょろ、と鳴く。なんというか、うーん、ハワイだけに文字どおり天国的ではないか。
正月の句だけでなく、大晦日の句も胸にしみる。
製糖の響動(どよめ)き止みぬ除夜の鐘 松花
ハワイの移民一世は、そのほとんどが砂糖プランテーションの労働者。彼らは蔗を刈り取り、筧(フルム)で流して製糖場(ミル)へ運搬し、工場内で圧搾する。
こういった句を読むと、人間の営みがかもしだす詩情は、とても美しく、そしてやはりせつないと思う。
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梢にとまるマイナ (C) Bernard Gagnon |
《参考資料》
■「日布時事」1908年1月3日号
■篠田左多江「『ハワイ歳時記』にみる文化変容 : (1)新年の季語について」,東京家政大学生活資料館紀要 2, 57-75, 1997-03
■高木眞理子「俳句・ 短歌から見る日系移民の姿 (1930年〜 1960年) ハワイ島を中心に」,愛知学院大学文学部紀要 37, 1-15, 2007-09
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