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乙未蒙古行 高山れおな
ウランバートル
おろしや式ホテルに着きぬ秋の暮
首都を出てすぐ八千草の国となる
風葬の峰々(ねゝ)か秋の日惜しみなく
十三世紀村
蒙兵の姿(なり)もしてみてすさまじや
ゲル・キャンプ 五句
草上に鷹のしぐさや相撲(ブフ)始まる
相撲(ブフ)たけなは相搏つ肉の響きのみ
秋(とき)はいま長靴(グダル)掛け合ひ草に転げ
雑技少女釣瓶落しの金(きん)を散らし
夜寒さのゲル打つ雨か星か知らず
テレルジ国立公園 五句
舌にしみかつは身にしむ馬乳酒(アイラグ)は
蒙古馬肥えて剽悍の性(さが)あらは
馬並(な)めて霧の花野が道なき道
露の野や糞(まり)落としあふ馬に乗り
指して来し亀岩いまし霧を脱ぐ
再びウランバートル
秋陰の鈍(のろ)の車列の尾につきぬ
ザナバザル美術館 四句
多羅(ターラー)菩薩眼差しの露凝らしたる
くもりなし金の肌(はだへ)も秋の色
女身仏そのうすものに花を刻み
印むすぶ指ぞまとへる秋の翳
ガンダン寺 四句
秋麗や雛僧(すうそう)まじるラマの列
大寺にさはの槌音涼新た
観音の巨軀に秋灯おびたゞし
興亡の寺に国(ウルス)に秋高し
チョイジン・ラマ寺院博物館 四句
扁額の満・漢・蒙・蔵秋日が灼く
荘厳は五臓六腑(わた)涼しくもばらばらに
昼月や仮面法会(ツァム)の幻追ふばかり
冷やかにひらく額(ぬか)の眼歓喜仏(くわんぎぶつ)
ボグド・ハン宮殿博物館
二十世紀鬱王宮の穂草かな
ホスタイ国立自然公園
野生馬(タヒ)と呼ぶ秋光に群れ遊ぶもの
ハラホリンへ向かふ 五句
天高く広くチンギス・ハンの国
天祭る石塚(オボー)や幾つ秋風に
秋の野を行く秋の野の他見えず
秋澄むや羊撒かれし花のごと
騎馬一群野を駆け我ら灼け道を
ハラホリン、エルデニ・ゾーの夕べ 六句
大伽藍草と化したる秋のこゑ
秋風のるつぼ百八の塔が囲む
声なき鳥色なき風と行きめぐる
飛蝗また跳んで廃墟と野の明るさ
星月夜写真に撮れば渦を巻く
煩悩の百八塔や虫しぐれ
エルデニ・ゾーは一辺四百米、ほゞ正方形の平面を持つ仏教遺跡なり。十六世紀後半、蒙古帝国時代の都カラコルムの旧址に隣りて、アブタイ・ハンにより創建せらる。盛時、同処に雲集せし六十二箇寺五百余棟の仏堂僧房は革命の凶変に遭ひて滅尽し、僅かにゴルバン・ゾーとラプラン寺の二箇寺十八棟、幷びに四方の囲壁と壁上の諸塔を残すのみ。社会主義政権倒るゝや漸次仏教復興すること稍三十年に近し。今日再び、濛々の香煙を嗅ぎ、讃仏乗の声を聞くを得たる、豈よろこばしからざらんや。
ゴルバン・ゾー 三句
秋日影のびて仏神の綺羅を這ふ
捧げばや明るけれども秋の灯を
龍が巻く梁や柱や秋ひでり
ラプラン寺 四句
爽やかに法楽の貝吹き呼ばふ
居並ぶラマ二の腕見せて夏衣
管長(ハンバ・ラマ)若し秋思の影もなく
果てしなき讃仏乗のこゑ涼し
三たびウランバートルへ
シベリヤ鉄道遥かに秋の灯を点し
市(いち)に溢る中国雑貨かつ残暑
牛・馬・羊・山羊・駱駝を五畜と呼ぶ
香(かざ)すさまじ五畜の肉を売るところ
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