2018-09-09

【俳人インタビュー】山田耕司さんへの10の質問

【俳人インタビュー
山田耕司さんへの10質問


質問:西原天気

Q1 今週、何句作りましたか?

5句。毎週、少なくとも5句つくります。


Q2 きょう、朝起きてから2~3時間の行動をできるだけ詳しく(公表できる範囲で)教えてください。

今日は出かける用事がない日でした。
横たわったまま枕を裏返して冷たい面に頭を乗せます。
尿意が突き動かすまで、そのまま。
トイレに行ってから、冷蔵庫を開けます。
昨夜の残りの「茄子の南蛮漬」と「鶏と大根の煮もの」を確認。
米を研いで土鍋にしかけます。
炊飯器はなくてこの30年土鍋で米を炊いています。
おととい届いた「犬ヶ島(ウェス・アンダーソン監督作品)」のブルーレイを流し始めます。気に入った映画は何度でも観ます。観るというか、生活の中に埋め込むという感じで、音だけ聞いていたりします。
ご飯は炊けました。このあと蒸らします。
アタリ少年が飛行機を直してゴミ島を脱出しようとしています。
醤油を使わずに出汁とみりんと塩で煮た大根を、軽く温めなおします。
煮凝りがほどけて鶏の脂が大根をつやつやに輝かせます。
頭に金属が刺さった少年が五重塔(パゴタ)スライダーで滑りおりたあと悲しそうな顔をしています。
そういえば、納豆があったはずでした。
玄関のピンポンが鳴っています。
ズボンを履かなければなりません。
ご飯は蒸れて、犬は涙をこぼしています。


Q3 現在お住まいの町は、どんなところですか?

白いポンポンがついた帽子に水色のハーフコートを着た幼児がアジアゾウの前で自分の手を見ている写真があって、これが小さい頃の自分なのだと教わりました。
小学校の授業で「動物の絵を描く」というのがありました。ゾウの前は混んでいるので、その近くの「カワウ(鵜)」のケージの前に座りました。「カワウ」はキレイな青い目をしていました。たくさん蚊に刺されました。
ゾウはそのままそこにいて、私は歳をとりました。
缶ビールを開けてゾウの前で乾杯をしました。ゾウは鼻を振り上げて、私は「冬の朝っぱらからゾウの鼻水をかけられつつビールを飲む男」となりました。
それからさらに何年もゾウはそのままそこにいて、私もこの町で暮らしてきました。ある夕べ、ゾウは亡くなりました。この町の桜が満開の頃でした。1964年から、そこにいたのです。61歳でした(そこにいた期間は53年)。
丘の上のゾウの家は、私の住まいから見えます。歩いて10分くらいの距離にあります。私はまだ生きていて、そこにはゾウのいないゾウの家があります。
私が住むのは、そんな町です。


Q4 このたび第二句集『不純』を上梓されました。いちばんこだわったところを教えてください。

「こだわらない」というところに、こだわりました。
自分しかわからないようなこだわりと呼ばれるものを遠ざけること。一方で、読み物としての面白さを引き出してくれるプロデューサーに身を委ねること。
そんな点を『不純』出版に際しての覚悟としました。
佐藤文香氏は、すばらしいプロデューサーです。


Q5 第二句集『不純』制作のあいだに起きたスペシャルなことを教えてください。トラブルでも心温まるエピソードでも心霊現象でもなんでもかまいません。

発行日が2018年7月31日となっています。
この日には手にしているはずでした。しかしながら、ま、あれこれあって、私のところに到着したのは8月2日でした。
その「あれこれ」は、さておき、8月2日というのが「パンツの日」であると聞いて、「ああ、そういうことか」と首筋の汗を拭いました。

少年兵追ひつめられてパンツ脱ぐ

この句以降、山田耕司は「パンツの人」と呼ばれること、少なからず。
パンツからは、かんたんには逃げ出せないのです。


Q6 どういうわけか、雄鶏を飼うことになりました。なんて名前を付けますか? 命名の由来も教えてください。

「すりこぎ」

同居する動物に人間の名前をつけるのは、ちょっとはばかられるところがあります。ということで、うちに連れてこられた猫の兄弟には「アメ」「ヒメ」「コメ」「トドメ」などと名付けました。「つくね」という子もいました。最後に過ごした猫は「おさら」。その後、生き物を飼っていません。キッチン用品シリーズの命名は「おさら」からの引き続きということで、「すりこぎ」。


Q7 目が覚めました。何十時間も眠ってしまったらしく、おなかがぺこぺこです。何を食べますか。部屋でも外食でもかまいません。できるだけ具体的に詳しく(なんならシズル感たっぷりに)教えてください。

「自分の爪」

何十時間も続けて寝たことがありません。
そんなに長時間にわたって尿意を抑えていられるとは思えません。
ともあれ、それほどに寝ていたのでしたら、目覚めたことを「目覚めた」と認識できるかどうかすらわからないかも、と心配になります。
自分に体があることを確かめたくなるでしょうし、どれくらい時間が経ったのかをそれとなく知りたくなると思います。
爪は、かじることができます。爪は、伸びるという性質において時計でもあります。
飲み込むかどうかはわかりませんが、もぐもぐしているうちに「なぜ自分の爪などを食べているのだろうか」と自分自身のことをいぶかしむことができるようになったら、起き上がっても大丈夫そうです。
暴力的な尿意を解放したら、そのあと、冷蔵庫にあるものを目につくところから食べることになるでしょう。


Q8 いま読んでいる本を教えてください。

『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』井上智洋 文春新書
『熊野概論』谷口智行  書肆アルス
『進撃の巨人』25巻 諌山創 講談社
『常陸坊海尊』秋元松代 河出文芸選書


Q9 座右の銘を教えてください。

Ever tried. Ever failed. No matter. Try Again. Fail again. Fail better.
サミュエル・ベケット


Q10  好きな自然現象について、教えてください。

夕暮れ。
毎日あって、毎日違う。
夜のふち。ふちは、くちびる。
夕立の野のも、雪の道のも。



山田耕司『不純』より十句:西原天気謹撰

跳び箱よ虹は橋ではなかつたよ

南瓜切る浅撫でに撫でほめてのち

おつぱいに左右がありて次は赤坂

鶴飼はれ立ち食ひうどん立ち食はれ

このレヂと決め長ネギを立てなほす

抱いてみてあやしてもみて冬の石

あけぼのや乳房仕舞ふに目を見つつ

冬の日や牛は去りつつまだ見えて

寒鯉をみてゐるわれのふと動く

研ぎ方のわからぬ虹となつてゐる


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