2019年 新年詠
〔投句順〕
初星や猪口一杯の酒にゑひ 渕上信子
息吐いて吸うております去年今年 西村小市
偶然が混雑してる初みくじ ふじもりよしと
喜寿米寿卒寿のかはす御慶かな 矢作十志夫
存分に朝の空気を大旦 杉田菜穂
初みそら修行するのしゅ瞬間のしゅ 藤本る衣
初鴉ピースピースと兜太の声 藤崎幸恵
ゆく年の湯舟に眠くいのちって何 池田澄子
幸せは要らないけれど姫始め 北大路翼
[Ctrl] [Alt] [Delete](コントロール・オルト・デリート)去年今年 鈴木茂雄
猪の眼に昭和の残火初松籟 篠崎央子
ファイトマネー敷き詰め眠る年男 飯田冬眞
トレーニング用具のやうな鏡餅 竹内宗一郎
初春を来たる電車の小豆いろ 大島雄作
オロナインH軟膏初湯かな 瀬戸正洋
火のやうな恋も確かに初山河 玉田憲子
淑気かつ満つ熟女パラダイス 上野葉月
出雲蕎麦一段貰ひ淑気満つ 笹岡大刀
淑気ありやあり無人のアーケード すずきみのる
若菜摘むまだまだ硬き川の音 中村 遥
父の知らない平成末期初御空 森山いほこ
喧しく初孫のこと雑煮食ふ 三島ちとせ
縫ひものの多き医務始となりぬ 谷口智行
ゆめ は めぐる ふすゐのとこ の ねしやうぐわつ 高山れおな
ちようろぎをはじめて見しとこひびとは 岸本由香
初富士へ研ぎて並ぶる花鋏 森脇由美子
珈琲の名を Noir と初明り トオイダイスケ
しめやかに土にほひたつ弓始 山口昭男
一月の一日がもう終るのか 西村麒麟
仲直りして泣きがほの春著かな 下坂速穂
一本の破魔矢授かるときしづか 依光正樹
川に沿ひ歩みを送る初明り 依光陽子
明日見えぬ獄窓に入る初明かり KAZU
賀状書くハードディスクの昇天後 野口 裕
いろいろの神を参りて福寿草 齋藤朝比古
遺されし鍋と語るや初厨 市川綿帽子
新しい廃墟で皆と歌留多する 赤野四羽
日の丸の大いなるかな初日の出 ハードエッジ
初日見に出掛けたる間の空巣かな 杉原祐之
雲海を振り切る揺らぎ初日の出 広渡敬雄
叱咤とも鼓舞ともつかぬ福だるま 藤本智子
初詣日の丸に風なかりけり 小川軽舟
スシローを雲丹の経巡るお元日 マイマイ
初買のドン・キホーテに小競り合ふ 岡田一実
すでにして疎なる矢桶や破魔矢売 堀下 翔
マチスの赤クリムトの金ぽぺん吹く 三浦 郁
出て罪のない初夢に出に行くか 福田若之
初夢やさしすせさいかく混信す 阪野基道
ランナーは町から海へ寒日和 熊谷 尚
新年の空あたたかき鍋の蓋 矢口 晃
出待ちのファン三人をりぬお元日 藤尾ゆげ
はつはるや水戸黄門の笑ひ声 金子 敦
真ん中の巫女が欠伸をする真昼 小林かんな
元日を急ぐ信号機も影も 曾根 毅
初鶏を刎ぬNIPPONの夜明け前 堀田季何
末の子と恵方大事の旅の空 大井さち子
初鳩が切り立つ人をとりかこむ クズウジュンイチ
二日はやマクドナルドの琥珀色 村越 敦
凶ばかり刷るみくじ屋の寝正月 月波与生
初夢の痰絡まつてゐる朝餉 中山奈々
猪のような彼女の初詣 紀本直美
新しき年くる雨に濡れながら 月野ぽぽな
伸び切つてやや畳まれて雑煮餅 豊永裕美
春やみなふろしきに消えつつ在るを 九堂夜想
しらじらと糞の乾きて寒鴉 折戸 洋
遠く近く船の汽笛と除夜の鐘 小久保佳世子
どんど焚くゾロアスターの浄火かな 石原日月
新年をくるんとカップ麺の蓋 西生ゆかり
つねひごろ朝に目が覚めお正月 茅根知子
初電話児のしやつくりを映しをり 武智しのぶ
ごまフラペチーノ啜りて淑気かな 千野千佳
初夢のつぎつぎ何かわからなく 対中いずみ
人間は斯くも小さしお元日 笹木くろえ
残りたる枸杞の実の照る淑気かな 堀本裕樹
三日はや北京ダックを包みをり 仲田陽子
三日はや嫌われてゐる親父キャグ 高橋透水
生きものが花びら餅の前に佇つ 赤羽根めぐみ
去年今年物干し竿のシャツパンツ 羽田英晴
読初のぱつと開けたるところ読む 拓植史子
初夢に出てすこし渦巻いている 笠井亞子
オクターブ高き声なり初電話 内村恭子
元日の犬の雲古を持ち帰る 雪我狂流
ゆかしさと癇癪玉がとる歌留多 隠岐灌木
どこかに雪降りゐる澄みやなづな粥 川嶋一美
門松は放つたらかしの青い空 大西主計
初御空よりステーキの降臨す 青島玄武
参道に回るケバブや初御空 鈴木不意
新宿の長のごとくに初鴉 山崎志夏生
初日さす月の静かの海に影 村嶋正浩
淡海の小さき港けさの春 日原 傳
凧揚げて糸うつくしき深空かな 柳元佑太
初売りのチラシだ足の爪を切る 近 恵
金色に底むらさきの雲二日 岡野泰輔
初日の出タバスコ色の泌尿器科 中内火星
雑多なるものに囲まれ年新た しなだしん
折りたたみ椅子並べある淑気かな 佐山哲郎
初夢の白石麻衣は男だつた 林 雅樹
食積や老母の箸のよくのびて 望月とし江
一月の一日(いっぴ)中央出口かな 高梨 章
ならぬこと為しての朝や鏡餅 岡村知昭
読初の謝辞それぞれの名の親し 戸澤光莉
羽子板の役者顔みな右向きぬ 宇志やまと
買初や食べるだけでは物足りず 吉田 瞳
読初は去年の読初のつづき 鈴木牛後
迷ひ込んだら若菜野に佇ちてをり 小林苑を
あらたまの銀河は真水貘ばかり 鳥居真里子
初風は片道切符で一杯 鈴木健司
黒犬の脚が塔めく姫始 彌榮浩樹
たつぷりと青空を抱く二日かな 柏柳明子
あらたまの鏡の酒や美少年(ガニュメデス) 小津夜景
初詣降つて雨だか霰だか 松本てふこ
スマホてふなでまはすもの去年今年 亀山鯖男
サラブライトマンは笑ふ栗きんとん 楠本奇蹄
湯けむりの首のひとつとなつて春 山田耕司
遊郭跡の鳥居てらてら初御空 柴田千晶
ずぶずぶの中年読初のサリンジヤー 太田うさぎ
初夢の道でもくはへ爪楊枝 浅沼 璞
雪原の鳴る夜へホーホーと呼ばふ 五十嵐秀彦
廃棄物提げて御慶を交しけり 斎藤悦子
黒豆の鍋 千年後の星空 八上桐子
水没のペンション群の初明り 岡田由季
初詣に並ぶ深紅のチマチョゴリ 西澤みず季
初鴉啼く大学の門の上 松野苑子
あをぞらに雲を探してゐる二日 村田 篠
明けみればみな戦友や初まいり 琳譜
山肌を日向が移り新暦 村上鞆彦
目のあいてそこが三日の木曜日 鴇田智哉
ただたんに草石蚕と言つてみたいだけ 西原天気
元日の禁忌言ひ合ふ初句会 橋本 直
忖度教徒に水を断つ行福笑 関 悦史
喪の家に色増えてゆく去年今年 近江文代
おっとりとクラフトビールの瓶淑気 佐藤智子
しりとりの思はぬことば福寿草 津川絵理子
新年の地球の隅の薄明り おおさわほてる
美しき紙袋選る女正月 小林鮎美
初春の清きお辞儀の家族かな 白夜マリ
歯固や矍鑠として白湯を噛む 津久井健之
初星のひとつ火球となりしかな 常盤 優
御降や光は坂となれるまで 阪西敦子
窓向けばそれが南で屠蘇祝ひ 大塚 凱
初夢にあらはれたなら恋でせう 龍翔
初波や元祖と名のるわかさいも 青山酔鳴
柏手に潮の香混じる初日かな 今泉礼奈
あらたまのとしのはじめようつらうつら 久留島元
雑煮餅食みつつ離れザッピング 高瀬みつる
玻璃あをくあれば五日が薄く経つ 生駒大祐
子を妻を雪に残して初電車 山口優夢
マスクわすれていのししどし同士 小川楓子
ざらざらと仮寓のごとき冬の星 今井 聖
吹初は新しき人呼ぶやうに 藤原暢子
ポニーテール大きく揺らし蹴初 榊 倫代
元日やヒマラヤ杉が家潰す 寺澤一雄
おつさんと我が子呼びたり草石蚕酸し 駒木根淳子
電子レンジの扉に映る毛布かな 榮 猿丸
特番の垂れ流されて湯冷めして 前北かおる
笑ふたび破魔矢の鈴のころころと 仲 寒蟬
おもしろうてやがてかなしき俳句哉 山田露結
洗いたてのパジャマに袖を星あたらし 木田智美
巻狩図の猪に金雲年新た 石地まゆみ
はつゆめの道路を思ひだしてゐる 上田信治
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1 comments:
昭和の残り少ない財産を、全て使い果たしてしまった平成でしたが心に残った句をいくつか。
一月の一日がもう終るのか 西村麒麟
元朝は豊かな季語に溢れているのに、忘れたように終わりました。
一月の一日(いっぴ)中央出口かな 高梨 章
電車に乗って、当然めでたい中央出口です。日本人なら当然です。
初売りのチラシだ足の爪を切る 近 恵
足の爪を切るのは艶っぽい行為です。初売りのチラシが際立てています。
電子レンジの扉に映る毛布かな 榮 猿丸
きっと元旦の光景です。寝起きで毛布にくるまった女がいて、何をチンなのか。
目のあいてそこが三日の木曜日 鴇田智哉
このだらだらとだるい感じがいいですね。これが三日を越えると世間の目がうるさぃ。
凧揚げて糸うつくしき深空かな 柳元佑太
このような句は誰でも書けるわけではありません。女にもてたいなどと邪なひとには。
幸せは要らないけれど姫始め 北大路翼
前の句とは対象的ですが、もしかしたら同じ思いなのかもしれません。
ほのぼのといいなあと思った句
マチスの赤クリムトの金ぽぺん吹く 三浦 郁
新年の空あたたかき鍋の蓋 矢口 晃
平成の次の時代は有季定型の俳句にとって、いい時代なのでしょうかね。
村嶋正浩
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