【空へゆく階段】№8
虚子一句
田中裕明
虚子一句
田中裕明
「水無瀬野」1992年9月号・掲載
いわゆる「恋に似たもの」を詠んだ句で現代ではこういう味わいの俳句は少ない。同時作に「淋しさに小女郎なかすや秋の暮」がある。小という文字が絶妙である。明治三十九年作。
「恋というものは幽霊と同じで、よく話は聞くが、誰もその実体を見たことがない。だからみな恋に似たものを見つけて安心している。」と山本夏彦が書いている。虚子は嘘というものに人一倍敏感で、しかもそれを許すことのできた人であったような気がする。このとき虚子は三十三歳。どう逆立ちしてもかなわない。
0 comments:
コメントを投稿