夏の渇き
浅沼璞『塗中録』の一句
西原天気
ゆつくりと蛇口漏れゆく夏の海 浅沼璞
ひとしずくのクローズアップが近景。背後に夏の海が遠景/後景として広がる。「漏れゆく」の直後は切れているとも切れていないとも取れる作り。いずれにせよ、水の、このシンプルなつながりが美しい。
夏の渇きが、鮮明に強烈に句を包む。
景色を読みながら、渇きというきわめて身体的な感覚を伝えている点。ああ、この句、すごく好き。
作者は連句で知られ、『「超」連句入門』(2014年4月/東京文献センター)『西鶴という方法』(2003年/鳥影社)などの著書もある。集中にも俳諧味を愉しめる句が多い。
みな同じ性をゆらして初湯かな 同
手も足も出ない夜空の布団です 同
学歴もはらわたもなき鯉幟 同
竹夫人すこし年上かもしれぬ 同
また、堂々たる本格も。
海原に生まれ野分として吹ける 同
そんななか、冒頭に挙げた句は、作者の「本線」からはすこしはずれるかもしれない。でもね、だからこそ、こうした爽やかで外連味のない句がめだち、一直線にこちらに届くということも起きる。句群のバリエーションの妙ともいえるし、1冊まとめて句集で読む愉しみともいえる。
これ、愉しい句集です。
浅沼璞『塗中録』2019年11月/左右社
≫http://sayusha.com/catalog/p9784865282573%E3%80%80c0092
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