【週俳1月2月の俳句を読む】
懐かしい音楽とか、映画とか
松尾清隆
十二月八日のドアノブを回す 山本真也
番鴛鴦曲がりくねった川をゆく 同
「マジカル・ミステリー・ジャパン・ツアー」と題された十句には、冒頭から「ポール」「オノヨーコ」といった人名を詠み込んだ句が並ぶ。この文脈に沿って読むならば、掲出一句目の「十二月八日」はジョン・レノンの命日として詠んだものと了解される。そのことを意識している人にとっては、ドアノブが殊更冷たく感じられる一日なのだろう。掲出の二句目、「番鴛鴦」はツガイオシと読む。オシドリのカップルである。そこにジョンとヨーコのイメージを重ね合わせて読むべきなのだろうが、筆者と同世代の方は中七下五からスピッツの「チェリー」を連想されるかも知れない。
ロケットの落ちてきさうな冬野かな 細村星一郎
最近だと「進撃の巨人」、古くは「風の谷のナウシカ」といった漫画作品の中に、町外れの野原に放置された、ロケットだか宇宙船だかの残骸を描いた場面があったように思う(劇場版だったかも)。前者のそれは「ドラえもん」の空き地にある土管くらいの役目を果たしていた。そんな場合の空はたいてい澄んだ青空で、じっさいに厄介なものが落ちてきたりもする。
列の子の一人振り向く枯野かな 田口茉於
こちら向く横顔の耳冴返る 同
一句目、まるで映画のワンシーンのような描写である。一人だけ周囲の子ども達とは違う方に目を向ける「列の子」は、何かを暗示しているとも。場所が「枯野」であるせいか、ビクトル・エリセ監督の映画「ミツバチのささやき」の如く美しい映像が脳裡に浮かんだ。二句目も映画的手法の作。「横顔」の人は当然ながら横を向いており、耳だけが「こちら」を向いているのである。下五「冴返る」の凛とした印象と相俟って、和室に居る人物が想起される。小津映画の登場人物であれば、この後こちらを振り向くだろう。
税率の混じるレシート龍天に 前田凪子
「税率の混じるレシート」は、昨秋に消費税率が上がったことに伴う〝区分記載請求書等保存方式〟に準じて発行されたものである。この方式は来春にインボイス方式が本格導入される迄の移行措置であるとか。下五「龍天に」は、竜が秋には淵に潜み、春分の頃に天に上るという故事に基づく季語。竜が想像上の存在であることは誰でも知っているが、税や国家といったものも又ある種のフィクションであるということは忘れられがちである。無関係のようで、そうでもない取り合わせの作。
2020-03-15
【週俳1月2月の俳句を読む】 懐かしい音楽とか、映画とか 松尾清隆
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