後記 ◆ 福田若之
今号でみなさんにお届けする安田中彦さんの「天皇の白髪」は、宇多喜代子『夏月集』(熊野大学出版局、1992年)の初めの一句にして表題の由来にもなっている《天皇の白髪にこそ夏の月》と、さらにこれまでこの句について示されてきたいくつかの読みとに対して、ひとつならずの問いを突きつけています。
この句の「天皇」が誰を指すのかという議論には、齋藤茂吉と小宮豐隆のあいだの、あの名高い蟬論争のことが思われもしました。
ひとまず「視覚的な面」に着目するなら、まだ黒髪の残る「白髪」(平成初めごろの明仁天皇すなわち現在の上皇)なのか、それとも、まぎれもない「白髪」(晩年の昭和天皇)なのか、要するに白髪の具合によって、「こそ」という言葉の意味合いもずいぶん違ってくるように思います。もちろん、どちらの天皇でもないという読みや、ひとりの天皇にとどまらないといった読みもありうるでしょう。
そういえば、《夕立やしかも八月十五日》という句がありますが、これは一茶の『文政句帖』に文政6年(1823年)7月の作として記されているもので、この句に書かれた「八月十五日」というのは、もちろん終戦記念日のことではなく、仲秋の名月の日のこと。いま挙げたのは極端な例ですが、文脈が一句の意味合いを大きく左右しかねないということは、これに限ったことではありません。
さて、宇多さんの句の背景に、どんな文脈を読んだものでしょうか。おそらく中上健次のことも避けては通れないでしょう。安田さんの文章をきっかけに、すこし考えてみたいところです。
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それではまた次の日曜日にお会いしましょう。
この句の「天皇」が誰を指すのかという議論には、齋藤茂吉と小宮豐隆のあいだの、あの名高い蟬論争のことが思われもしました。
ひとまず「視覚的な面」に着目するなら、まだ黒髪の残る「白髪」(平成初めごろの明仁天皇すなわち現在の上皇)なのか、それとも、まぎれもない「白髪」(晩年の昭和天皇)なのか、要するに白髪の具合によって、「こそ」という言葉の意味合いもずいぶん違ってくるように思います。もちろん、どちらの天皇でもないという読みや、ひとりの天皇にとどまらないといった読みもありうるでしょう。
そういえば、《夕立やしかも八月十五日》という句がありますが、これは一茶の『文政句帖』に文政6年(1823年)7月の作として記されているもので、この句に書かれた「八月十五日」というのは、もちろん終戦記念日のことではなく、仲秋の名月の日のこと。いま挙げたのは極端な例ですが、文脈が一句の意味合いを大きく左右しかねないということは、これに限ったことではありません。
さて、宇多さんの句の背景に、どんな文脈を読んだものでしょうか。おそらく中上健次のことも避けては通れないでしょう。安田さんの文章をきっかけに、すこし考えてみたいところです。
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それではまた次の日曜日にお会いしましょう。
■安田中彦 やすだ・なかひこ
1956年生まれ。札幌市在住。「香天」(岡田耕治代表)同人。現代俳句協会会員。句集に『人類』(2017年、邑書林)。
■瀬戸優理子 せと・ゆりこ
1972年東京生まれ。北海道在住。
2015年、第33回現代俳句新人賞受賞。
2017年、第一句集『告白』刊行。
『WA』『ペガサス』『蘖通信』所属。
ブログ「癒詩空間」https://iyasi355.blog.fc2.com/
■山岸由佳 やまぎし・ゆか
1977年長野県生まれ。1977年長野県生まれ。「炎環」「豆の木」同人。第33回現代俳句新人賞受賞。
1972年東京生まれ。北海道在住。
2015年、第33回現代俳句新人賞受賞。
2017年、第一句集『告白』刊行。
『WA』『ペガサス』『蘖通信』所属。
ブログ「癒詩空間」https://iyasi355.blog.fc2.com/
■山岸由佳 やまぎし・ゆか
1977年長野県生まれ。1977年長野県生まれ。「炎環」「豆の木」同人。第33回現代俳句新人賞受賞。
■対中いずみ たいなか・いずみ
1956年生まれ。田中裕明に師事。第20回俳句研究賞受賞。句集に『冬菫』『巣箱』『水瓶』(第68回滋賀文学祭文芸出版賞、第7回星野立子賞)。「静かな場所」代表、「秋草」会員。
■中嶋憲武 なかじま・のりたけ
1994年、「炎環」入会とほぼ同時期に「豆の木」参加。2000年「炎環」同人。03年「炎環」退会。04年「炎環」入会。08年「炎環」同人。1955年生まれ。句集に『人名句集チャーリーさん』(2005年・私家版)、『けむり』(2011年10月・西田書店)。笠井亞子と『はがきハイク』を不定期刊行。ブログ「俳句的日常」 twitter
■福田若之 ふくだ・わかゆき
1991年東京生まれ。「群青」、「オルガン」に参加。第一句集、『自生地』(東京四季出版、2017年)にて第6回与謝蕪村賞新人賞受賞。第二句集、『二つ折りにされた二枚の紙と二つの留め金からなる一冊の蝶』(私家版、2017年)。
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