2020-05-24

【週俳4月の俳句を読む】ふーうん・うむ 鴇田智哉

【週俳4月の俳句を読む】
ふーうん・うむ

鴇田智哉



◆「半券 黒岩徳将」を読む

片栗の花に屈むと踵浮く  黒岩徳将

ああするとこうなる、の面白さ。自動的にこうなる、という。

自分の踵だと読んでも機械的で面白いが、一緒にいる人の踵だと思えば、なかなかに魅力的な句だ。片栗の花のイメージからすれば、後者で読んでみたい。

音感としては、カ行がかなり効いている。

花屑が手羽先用の紙皿へ  同

水に茶に蕎麦の半券濡れて春  同

泣かせる二句だ。楽しいことをしているふと、今自分は楽しいんだな、と思う、そういう瞬間でしょう。

そうした後にふっと、

遠足のペンギン音もなく水へ  同

遠足の思い出としてなぜか、この風景が心に残っている。

まんさくの花や拳の中の指  同

拳の中の指、というとやはり、何かを我慢しているのかな、とか思える。そうでなくても、何かをたんたんと遂行しているときの感じではないだろうか。一人の自分である。

まんさくの花、のわなわなした雰囲気が、手という別次元と作用し合っていて、立体的な魅力がある。


◆「追憶と鉈 安里琉太」を読む

海灼くる無風を蝶のひた歩く  安里琉太

くっきりと描写されている。ずっと歩いていくのが見える。

ひた歩く、という言葉が、それを見ている主体のまなざし、を読者にもたらす。

ひらかれへ馬上の風雲倦む耕  同

みしはせを奇想の蒜へふり分ける  同

吊るし倦む百丈雛の黄の総体  同

洒落のめす、という言葉に思い至る、技巧的な三句。

ひらかれ、という魅力的に名詞化をされた言葉の上向き感が、馬上の風雲へとのぼる作用を表したかと思うと、倦む耕(たがやし)、という反作用へと読者を誘い、大きな架空空間を作り出す。

ばじょーのふーうん・うむ、の部分のリズム豊かな調べも魅力。

みしはせ、を、蒜にふりわけるという奇抜な発想。

蒜(ひる)という言葉が、蛭、ヒルコの連想をも生む。

吊るし倦む百丈雛、の句にはなぜか、グリム童話のラプンツェルを思った。百丈、という言葉が髪の毛を連想させたのだろう。

それにしても、黄の総体、とは。黄、という決めつけと、総体、という固い熟語の大胆さが魅力だ。


第676号 2020年4月5日
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