4. 落合耳目 LED
子を高く担ぎ初日の持ち上がる
あをぞらを大盛りにして大旦
初富士といふ大いなる晴れ男
出初式みづ如意棒のやうに伸ぶ
大寒の香辛料として日差し
浮寝覚め少し気不味くなりにけり
葉牡丹は美しき鼻炎の昼の中
蝋梅を鼻孔に入れて持ち帰る
湯に浸かるやうな貌して春の鴨
富士の嶺を見飽きてしまふほど長閑
別れてもまた三椏の花として
落暉はや春分の日をうらがへす
うづしほの螺子がなかなか締まらない
たんぽぽを遊牧民と思ひけり
座禅草とは学生のワンルーム
桜まじ円周率は外回り
片栗の花の寝癖が直せない
野良猫は孤高の詩人花月夜
レタス噛むとき奥歯まで眩しがる
うらうらと鳩鈍感になつてゆく
新聞を翼のやうに広げ夏
こどもの日首から提ぐる社員証
夏草といふ牧草の食べ応へ
ジャムとなるまで夕焼を煮詰めゆく
飼猫のやうに扇風機を運ぶ
傘小さくして夕立に立ち向かふ
常緑の影固くなる暑さかな
忠犬のごと空蝉を待たせおく
甲虫夜に黒船の炉を燃やし ↓夜は
鷺草の空を知らざる白さかな
秋日傘かるく絵柄を見せて閉づ
鶺鴒の足を車輪にして進む
バリウムの甘き勤労感謝の日
台風の怒りを捨ててゐる河口
風の端に秋風鈴の音ひとつ
桐一葉尻を押し出すすべりだい
店閉めて誠に勝手ながら秋
秋風の結び目となるジャンクション
稲雀とはしたたかな民主主義
腰かける案山子に物凄い気配
きのこにもなだらかな頂のあり
芒野に梱包されてゐる心地
秋の灯をLEDに取り換へる
ラーメンは悪魔の食事秋深し
鳰潜るときわたくしも息を止め
大根の白出たがつてゐたりけり
裏鬼門から恵方まで雪囲
無駄遣ひして煤逃げを咎めらる
ゆく年の落日といふ後頭部
まなぶたは世界のふすま年流る
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鳩時計鳩ひきこもる西日かな 折戸洋
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