2020-11-07

3. 岡田一実 文字

3.  岡田一実 文字

水引や泥鰌は己が泥煙 

蓮の実の下もじやもじやに蓮の蘂 

鶺鴒の浅瀬に歩く脚うごかし 

掃苔や濱に火を焚く音の中 

猫じやらし風に根元の濃くれなゐ 

実をつけて屁糞葛の萱を巻く 

秋の滝ふたすぢ同じ滝壺へ 

窪に渦してそれよりの紅葉川 

木柵を跨ぐ脚立も松手入 

卵殻のあはき凹凸白秋忌

走り根を階として茸山 

すぐ飛ばす綿虫を手に歩かせて 

返り花川は巌の段に急 

雑炊の卵蒸す間の二三言

話しあふ忘年会を思ひ出し 

祭壇の短き菊や初詣 

門松の松細し竹猛々し 

初かがみ吾の背景の白き壁 

可笑しいと思ふそれから初笑 

前傾に揺れてひたすら初笑 

熱移る三つ葉の茎や雑煮椀 

白粥炊くあひに七草切る微塵に 

吾を見て縄跳のまま横へ()る 

滾る閾超え千切らるが波の花 

門灯に貌あらはるる雪達磨 

寒鴉まづ足に跳ね羽に飛ぶ 

窓のあるビルが街なす冬日かな 

雲ざつと来て探梅を急の雨 

春の風邪まなこのミモザ殊に黄に 

鶯笛ひなたの味に鳴りにけり 

こゑの目白すがたの目白梅に来る 

渦潮のうづ巻く前の盛り上がり 

はくれんを夢のごとくに穢のおよぶ 

ものの芽といふには少し長かりき 

子のこゑの宙をつたはる土筆かな 

ほほゑみのいまは動かず雛人形 

歩くとき黙に発つとき囀りに 

宙あをく見ゆる不思議を飛花落花 

ヒヤシンスその根巻かれて売られあり 

夕光(ゆふかげ)の風に粒なす苜蓿 

歪み開く口の黄色や燕の子 

羽虫あまたたかる花あり泰山木 

六月や薄日に高嶺揃ふ(ひる)

雨は灯に乱れて夏の欅かな 

河骨の花ごと揺るる中の蜂 

萍をおし分け泡の浮き出づる 

勢ひのよき滝にして丈短か 

脚に蝶まはしつつ蜘蛛それを食ふ 

夏痩や文字を解して手紙読む 

あをく暮れゆく夕焼のすぢ残し

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折戸洋 さんのコメント...

滝壺を覗き探偵探しけり 折戸洋