2020-11-07

2. 大西主計 画面に指を テキスト

 2.  大西主計 画面に指を 

出発は薄氷の鳴る水溜り
駅が開きスーパーが開き花辛夷
裏露地の蝶が眩しくしてゐたる
珈琲を買つて片手に春浅し
製油所の銀の配管春の海
オートバイを押して石蓴を見下ろして
たんぽぽの富士演習場の煙かな
爆音は春の光の奥高く
虻のゐて自販機だけの休憩所
ゆるゆると下りてゆく道うららけし
春昼やうしろに人の見えずなる
野遊びのイートインにて別れけり
思ひだすやうに葉を剝く桜餠
鳥曇古新聞の束を積む
からつぽの雨の教室花は葉に
いつまでもガム嚙みてをり新樹の夜
背丈ほどの顔のポスター夏来る
雨あがり白百合のみが背の高き
濡れ傘を突つこむ袋半夏生
信号の向かうにひとり片かげり
帰省の旅海岸線のただ長く
ボートに凭れ舟虫のみな逃げる
泳ぎ出て水の冷たくなるところ
その後は立つて裸で水を飲む
夏の果デッキブラシを忙しなく
夕焼と汽笛の溜まる坂の町
やあやあと挨拶しつつ門火かな
浜砂の緊まれば秋の来てゐたり
墓参いつもの手順いつもの帰路
ねばりつくやうにまはりを赤とんぼ
抜いて積む朝顔の蔓そして種
鰯雲さうか募集は終はつたか
出航の合図は嗄れて文化の日
来てさつと鰡網打つて行かれしよ
色鳥に目を誘はれて空の青
菌山ここを越えればだれも来ぬ
銀杏散る大通りまで戻りけり
いつまでも建たぬ区画を寒鴉
ほどほどに雑草ありて小春かな
踏み歩く溝蓋の音冬の朝
極月の画面に指を走らせる
枯草に底を搏たせて停車せり
一片の風花飛ばず空深し
底冷の唾を呑み込む喉仏
白鳥の騒ぎのいつか風も無し
夜鳴蕎麦ネット空間しんしんと
冬月やなんと遠くに坐りゐる
翻る背のしなやかに雪の街
白葱を高く掲げて帰るなり
ビル眩し口を結んで春を待つ


1 comments:

折戸洋 さんのコメント...

缶珈琲ごとり贖ふ余寒かな 折戸洋