1. 青島玄武 辛夷の空
鼻歌も秋めく頃となりにけり
休暇果つ畳にこぼすコカ・コーラ
風の色古き写真にありありと
良宵や皿を溢るるスパゲティー
爽やかに相合傘は解けたり
小さきに膝を屈むる水の秋
陸橋の上にも踊り止まぬ人
もうひとつ枝豆つまむ赤き爪
騒がしき百寿の通夜や虫の夜
またしばし夜を見つむる菊人形
枯山河その真ん中の遊園地
踏切に対岸のある寒さかな
唇を嘗めて湿すや去年今年
家元が一番下手な能始
それぞれの首を洗へる初湯かな
寒晴れやラジオ体操する背広
日輪の蘂震はせて寒牡丹
節分に少し離れて家の猫
ぶつぶつと野火の呟き止めどなし
花買うて花屋出られぬ春時雨
自転車も椿を踏んで通学す
蝌蚪の水湧くや古墳の底ひより
春灯や一日を終へし指の傷
贋物の九谷の皿の鶴も春
ぶらんこの隣は彼氏とも違ふ
目刺焼くと仏の匂ひしてきたる
まんじゆうも知らぬ顔して雛人形
散りてなほ辛夷の空のありにけり
をさなまで同じ訛や桜餅
プリウスの後部座席の桃の花
ふるさとの川の臭さよ花万朶
おにぎりの中から桜吹雪かな
打球音花の端まで響きけり
ひとひらの落花に浮かむ阿蘇五岳
蘖ゆる合掌の手を開く如
羊羮を春の愁ひを切り分くる
神様を脇に退けたる藤の花
麦秋を縁取るやうに陸上部
海神の耳へ囁く不如帰
甲板が全般的に蛸となる
滴りの下に生れにし社かな
緑陰に冬物あまた干されあり
青空の端まで田植終りけり
大王の棺重なる紅の花
とりどりに傘を傾け大祓
親の滝子の滝孫の滝と落つ
蝿帳へ賞味期限の切れたるも
紫陽花の花びらごとの影日向
軒下に迫り来たれる夏野かな
午後九時で最終列車翌は秋
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母を待つ子の鼻歌や春の夕 折戸洋
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