2021-07-04

【中村安伸✕西原天気の音楽千夜一夜】ドナルド・フェイゲン「雨に歩けば」

【中村安伸✕西原天気の音楽千夜一夜】
ドナルド・フェイゲン「雨に歩けば」

今週はゲストをお招きしました。

安伸●昔から雨は好きだったはずなのですが、通勤が大変なので嫌いになっていました。近頃、テレワークで外出が減ったせいかまた雨が好きになりました。

天気●じゃあ今週は雨ばかりで最高でしたね。

安伸●雨ばかり続くとそれはそれで困るのですが。それはさておき、レッドツェッペリンの「レインソング The Rain Song」や、Juice=Juiceの「愛・愛・傘」など、雨の曲にも好きなものが多いです。そのなかからドナルド・フェイゲンの「雨に歩けば Walk Between Raindrops」を紹介します。

 

安伸●ドナルド・フェイゲンはスティーリー・ダンのキーボーディストで、この曲がおさめられた「ナイトフライ(The Nightfly)」は 1982年に発売された初のソロアルバムです。1982年といえば私は小学生でした。私がこの曲をはじめて聴いたのは中学生になってからですが、このアルバムはもとよりスティーリー・ダンもドナルド・フェイゲンも知りませんでした。

天気●やはり世代が違いますね。スティーリー・ダンは1枚目の「キャント・バイ・ア・スリル」(1972年)からずいぶんと愛聴しましたよ。「ナイトフライ」はCD時代幕開けの名盤。録音技術的にも当時の最先端と言われていました。

安伸●意識して音楽を聴くようになったのが中学に入った頃からなので、スティーリー・ダンに関しては完全に後追いです。リアルタイムかどうかにかかわらず、その頃聞いた音楽には特に愛着があります。ちょうどアナログレコードからCDに移行する時期でしたが、アルバムを購入するお金がないので、FM放送をひたすらカセットテープに録音して聴いてました。

天気●エアチェック。って、今はもう言わないんでしょうね。そのあたりは世代がちがってもおんなじですね。

安伸●この「雨に歩けば」も一曲だけエアチェックしたのを繰り返し聴いていたもので、アルバム「ナイトフライ」を聴いたのはかなり後のことでした。

天気●きっとふつうとは順序が逆でしょうね。それもラジオの楽しさ。

安伸●順序が逆といえばローリングストーンズよりも先にミック・ジャガーのソロを聴いた気がします。そういうタイミングだったのかもしれません。さて、「ナイトフライ」の一曲目「I.G.Y.」はCMにも使われたのでよく知られていると思います。この曲のレトロフューチャー的で皮肉の効いた歌詞の印象が強いせいでしょうか、今聴くと冷戦時代における批評的なコンセプトアルバムのような感じもします。

天気●社会の出来事をあしらったみたいな作りのようですね、このアルバム。

安伸●「雨に歩けば」はアルバム最後の曲で、アップテンポの4ビートにオルガンとチープなマリンバっぽいエレクトリック・ピアノの音が印象的です。決して音数が少ないわけではありませんが、隙間というか余白があって、昔のミュージカルを再現したおもちゃというような、軽快でコンパクトな曲調です。

天気●洒落てますね。

安伸●明るくて少しロマンチックな歌詞が終盤に未来形(That happy day we'll find
each other on that Florida shore.)になるせいでしょうか、それとも最後のコードのせいか、結末が確定しないまま終わる映画のような不穏さがあります。

天気●余韻、ありますね。

安伸●はじめてこの曲を聴いたラジオ番組の内容は忘れてしまいましたが、この曲がラストにかかったことは記憶しています。ただ、当時は特に不穏な印象を感じず、単純に雨の曲なのに明るい曲調なのが気に入っていた気がします。アルバムを聴くようになってこの曲に対する印象も変化したのだと思います。


(最終回まで、あと800夜)

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