【空へゆく階段】№72
特別作品「蛇の衣」
「晨」第68号(1995年7月)
田中裕明
木の花の莟つめたき蟇
居候てふ曾てあり蟇
卯の花に雲のつめたく流れけり
草笛を吹くにいやしき手と思ふ
ふくまする乳われになく桐の花
ぬばたまの眠りい落ちて蛇の衣
うたかたの旅装とはこの蛇の衣
形代の幼き息に触れもして
滴りをさだかに聴くはめつむりて
甲子園六十年の火蛾を掃く
日曜日の朝。句会に行こうとすると一番下のいつみが連れてゆけと言う。神戸まで二時間足らず。地震のあとまだ阪急が全線開通ではないのでJR線に乗換えた。以前会場となっていた三宮のビルが地震のあと使えなくなっている。新しい句会場は元町の私学会館だが元町の周辺も地震の被害の大きいところがある。閉められたままの店も多い。
いつみは何も知らずにベビーカーに乗っているが、いつかは震災のことも話さなければならないだろう。
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