2023-10-08

嶋村耕平【澤田和弥の一句】氷瀑や数千兆の注射針

【澤田和弥の一句】

氷瀑や数千兆の注射針

嶋村耕平


氷瀑や数千兆の注射針  澤田和弥

氷瀑の水滴が凍結し、鋭角な形状を形成する瞬間を、「数千兆の注射針」という非現実的な隠喩で捉えている。単に針金や物質的な金属ではなく、注射針としたところで、冷たさを超え、生々しさというこれまでの「氷瀑」の句群にはない新たなイメージが付与されているように思う。

和弥さんの一連の作品を数年ぶりに改めて読ませていただくと、血の通った暖かさと冷たさの温度差、血なまぐささは一連の句のテーマになり、西村賢太の小説を読んでいるような雰囲気がある。冒頭の句もそうだが、「干首のごとく曼殊沙華萎る」や「葉牡丹がやがて胎児となる日まで」など伝統的な俳句の対象も和弥さんのフィルタを介せば肉体的な温度を与えられている。俳句のフォーマットを守りつつも現代を読み込む様々な実験的な試みが成されており、それらは今なお新しい。ときに風俗的な生々しさや現代を生きる苦悩が赤裸々にあり、同世代を生きた私にとっても共感できることが多かった。


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