【中嶋憲武×西原天気の音楽千夜一夜】
ロバータ・フラック「Compared to What」
憲武●前回がダニー・ハザウェイでしたので、ロバータ・フラックを一曲ということで、Roberta Flackで「Compared to What」。
天気●ロバータ・フラックは「やさしく歌って(Killing Me Softly with His Song)」の大ヒット(1973年)がまず有名。次によく知られるのがダニー・ハザウェイとのデュエットアルバム(1972年)だと思います。
憲武●そうでしょうね。「Compared to What」はロバータ・フラックのファーストアルバム「First Take(1969)の1曲目で、ジーン・マクダニエルズの作品です。ユージーン・マクダニエルズといった方が知っている方が多いかもしれません。
天気●ロバータ・フラックのこれまた大ヒット曲「Feel Like Makin' Love」(1974年)を書いた人ですね。
憲武●そうです。ユージーン・マクダニエルズのアルバムもなかなかいいです。「Compared to What」の歌詞は"trying to make it real. but compared to what"「本物で行きたい。でも本物って、何と比べて本物と言える?」という、当時の社会情勢やベトナム戦争を皮肉ったプロテストソングです。叩きつけるような歌い方に、苛立ちといったものを感じます。
天気●歌詞を見てみると、1番はラヴソングっぽいのに、2番、3番と様相が変わってきて、大統領とか戦争といった語が出てくる。
憲武●このアルバム発表当時、ロバータ・フラックはまったく無名で、アルバムのジャケットにあるように、バーの片隅でピアノを弾いて歌う日々を過ごしていたようです。しかしながらこの曲はレス・マッキャン&エディ・ハリス、メイシオ・パーカー、アル・ジャロウなど多くのアーティストにカバーされてます。
天気●カバー先が幅広い。メッセージ性の強い男性歌手、ソウル畑のサックス奏者、ジャズ寄りのソウルシンガー。
憲武●ロバータ・フラックと言えば、「やさしく歌って」のカバーや「フィール・ライク・メイキング・ラブ」などの曲のイメージが鮮烈で、優しい曲を歌うっていうイメージがあったんです。
天気●そうそう、そのイメージが強い。この「Compared to What」はR&B色が強い。渋いとこを選びましたね。
憲武●30歳になった頃に、たまたまファーストアルバムを買って聴いてみたんですが、なんかこう、ガラッとイメージ変わりましたね。ソフトなラブソング歌う人っていうイメージから、骨太で、奥に優しさを秘めたソウルフルな人というように。ロン・カーターのベースもいいですね。
天気●なるほど、よく聴くと、ウッドベースっぽい。
憲武●それからロバータ・フラックのアルバムを買い漁りましたが、どれもいいんです。声と歌い方が、好みだったんですね。ふわっと包まれるような声です。声っていう要素、大事です。
(最終回まで、あと687夜)
0 comments:
コメントを投稿