2023-12-17

中矢温 ブラジル俳句留学記〔20〕トイレの落書き

ブラジル俳句留学記〔20〕
トイレの落書き

中矢温


今回はブラジルに来て一番衝撃だったことを書きたいと思う。それはブラジルのトイレは鍵が閉まらないことが多いことだ。短い腕を伸ばして必死にドアを押さえてみたり、荷物を置いて開かないようにしてみたり、誰も来ないでくれと祈ってみたり。都度頑張って対処している。

因みに詰り防止のため、使った紙は便器脇の屑籠に捨てる使用となっていることも衝撃的だった。日本で身に着いた習慣は恐ろしいもので、数度便器のなかに捨ててしまったこともあるが、力いっぱい流したら無事紙が流れてくれたので安心した。

こういう訳なので勿論ウォシュレット等の機能はないし、便座はいつも冷え冷えとしている。まあ慣れればなんということもないが、慣れるまでは大変であった。おすすめのトイレは、サンパウロ通りにある国際交流基金のトイレである。勿論鍵がきちんとかかるし、清潔だし、ウォシュレット機能もあって、おまけに広い。

有難いことにどのお手洗いにも石鹸はあって、また手を洗った後のペーパータオルもほぼ必ずあるので、ハンカチを忘れても安心である。

それにしても公共のトイレは不思議な空間である。ひとたび鍵を閉めればプライベートな空間になるが、ドアを開ければまたすぐパブリックな空間に戻る。壁や鍵でプライベートが確保されつつも、密閉空間ではないので、外で待つ他者や隣の個室にいる他者の気配は感じる。

前置きが長くなったが、ブラジルに到着して数日後、初めてサンパウロ大学のお手洗いに入ると壁に「落書き」が書いてあった。

Quero me matar.

思わず息を呑んだ。
直訳すると「私は私を殺したい」、つまり「自殺したい」ということである。シャープペンシルで書かれた弱弱しい字だった。

その「落書き」から矢印を伸ばして、「大丈夫?」と違う筆跡で一言書かれていた。私も何か書こうと思ってペンを探る。青いペンで「あなたは一人じゃないよ」と書いた。

その「落書き」のことは気になりつつもその個室をピンポイントで利用することもなく、一週間ほど経ってまたその個室に入ったら驚いた。落書きが大量になっている。「自殺したい」を取り囲むようにあれこれと励ましのメッセージが並んでいた。「私に連絡して!」と電話番号を書いている人までいた。詩のような暗喩めいた言葉はなく、どれもまっすぐ心に届くメッセージだった。

そういえば日本の女子トイレにも希死念慮やDVについての相談を促す小さなカードが置いてあることがある。なんとなくその意図や効果が分かったような出来事だった。公的空間と私的空間の狭間でひっそりと発されたSOS。あの落書きを見てから四か月が経つ。彼女は少しは元気になっただろうか。元気いっぱいでなくともいいのだけれど、ただどうかしなないでほしい。

雨季の12月に訪れたイグアスの滝


〔ポルトガル語版〕(escrevi o resumo no português)

Gostei do Brasil e já foi costumado para o Brasil, mas ainda não posso entender porque quase todo porta do banheiro é quase quebrado. 

Demais queria deixar fora o papel na banheira, mas sorgo a regra de deixar fora para lixeira ao lado da banheira. A sistema da banheira não tem bastante pressão de água.

Então, no banheiro da USP, eu vi uma mensagem em uma parede.

-Quero me matar.

Fiquei muito triste, mas eu também descobri outra mensagem ao lado da mensagem.

-Tudo bem? 

Eu decidi adicionar minha mensagem. 

-Você não é sozinha.

Depois de uma semana, eu visitei esta parede de novo. Nossa. A parede fica com cheio das muitas mensagens. Gosto do coração aberta dos brasileiros e desejo ela fica melhorar, quem escreveu -Quero me matar.

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