【俳句のあたらしい作り方】
マインドフルネス俳句
千野千佳
※蒼海20号(2023年6月刊行)より転載。
NHKの番組「あさイチ」で、ストレスケアの方法として「マインドフルネス」が紹介されていた。「マインドフルネス」とは、「今していることに注意を向ける」という科学的なメンタルトレーニングとのこと。番組ではマインドフルネスのひとつとして、「食べる瞑想」が紹介されていた。
具体的には、目の前の食べ物を、生まれてはじめて見たという感じで、五感をフルに使って食べる。色、形、におい、食感、味を丁寧に感じる。番組では、先生の指導のもとにアナウンサーが苺を食べていた。「まずは苺を見つめてください。」「色は?」「形は?」「ゆっくり噛んでみてください。」「形がなくなるまで丁寧に噛み続けてください。」「舌がどう当たりますか?」「歯はどちらでたくさん噛んでいますか?」と先生に問いかけられつつ、一粒の苺を三分くらいかけて丁寧に食べるアナウンサーを見て、あることを思った。まるで作句対象を前に、納得のいく一句ができるまで、対象を観察し尽くす俳人のようではないか。
わたしも「食べる瞑想」を行い、俳句を作ろうと思った。苺は家になかったので、バナナでやってみる。①じっと見つめる→スイートスポットがへこんでいる。〈黒点のへこんでゐたるバナナかな〉②撫でてみる→キュルキュルとしてゴムのような質感。〈ゆつくりと撫づればきゆると鳴るバナナ〉③匂いを嗅ぐ→バナナは部位により匂いが異なることに気づく。〈青々と匂ふバナナの細き首〉〈尻すこし黴のにほひのバナナかな〉④ゆっくりと皮を剥く→〈バナナの皮最後は太く剥きにけり〉⑤ゆっくり噛んでみる→バナナを噛んでいるときの音に初めて耳を澄ませてみた。〈バナナ噛むシズッシズッと音のして〉⑥形がなくなるまで丁寧に噛む→〈バナナ噛みつづけてをりぬ左右の歯〉⑦舌にどう当たるか→〈バナナ食ふ舌を前歯に押し付けて〉⑧食べ終わった皮を見る→バナナの匂いの本体は皮だということに気づく。〈くんにやりとバナナの皮の匂ひけり〉
成功している句ばかりではないが、五感をフルに使ってバナナの句を作ることはできた。句の出来を気にしていては、マインドフルネス(ストレスケア)にならないので、これでいいのだと思うことにした。「食べる瞑想」はやっていくうちに上達するらしいので、この作句方法も慣れればきっといい句ができると思う。
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