2024-07-28

西原天気【句集を読む】 船出のただ中に 足立枝里『春の雲』の一句

【句集を読む】
船出のただ中に
足立枝里春の雲』の一句

西原天気


夏帽の集まつて来し船出かな  足立枝里

船出の時刻が迫り、乗客が集まってくる。心躍るような時間。

こんな措辞を選ぶ可能性はまずないが、仮に、「集まつてゐる」なら、船から桟橋から距離をとった位置から眺めていることになり、これはこれで一つの叙景だけれど、やはり、ここは、自分(作者)も船出のただ中にいるほうが、気分があがる。

1文字あるいは数文字で景色が変わってくる。あたりまえの話だけれど、そういうあたりまえの配慮や工夫を積み重ねて、俳人は俳句をつくっている。そのことを改めて思いました。

掲句は足立枝里句集『春の雲』(2020年/私家版)より。

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