2024-11-17

踏切 高梨章 作品50句

 


 
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 踏切  高梨章

木の芽張るかくしきれない呼気吸気
すみれからすみれの外へ脚を出し  
肩にのるあんずの花のやはらかき 
さへづりや光合成の途中です  
風にどう揺れていこうかピクニック
てふが来てわづかにしづみ花のうく
たんぽぽの黄はすいめんに山ふたつ 
白木蓮(はくれん)のりんかくひかるかんたあた
春の夜ブリキの金魚くつがへる     
いくらかの深さに掘れば春の月 
薄氷やそこでみんなは待つてゐる
死にたればまばらな雲から春の星 
てふてふを離れず川はながれけり  
花冷えの傷ぐちひらく廊下かな 
四角の箱へしかくにたたむ春の家  
春の雨あがればみづのそとは夢     
花は葉にハムからハムをひきはがす
ふしぎな楽器のやう水に浮く茄子
六月の傘をひらいて音になる
蝉の羽化しづかな空を風にする 
坂の上はさへぎりもなき夕映のまた失ヘば得がたきひかり 小野茂樹
夕焼のほうへかたむく歩道かな
卵割る 青葉木菟が鳴きましたね 
遠いドアひらけば音のとどく夏
遠雷をポケツトに入れ青(ブルウ)  
夕立の気配のなかの醤油差し  
数式の中途蟻を見たくなる
いつぽんの見えかくれして瀧となり
風がきて廊下をまがる夜の秋  
四万六千日の夜道かな
草の実の来てゐるぼくのくちぶえ 
犬が犬を嗅ぐ八月の路地に入る  
数珠玉のいつつでならぶ夜空かな
あとがきのない本そらを鳥わたる
鶴わたる海底ケーブル敷設船  
この谷のつくつくばふし谷の空 
秋はみな麒麟のやうにあるきたり 
また跳んでべつの芒でゆれてゐる
壁にあるちひさなへこみ秋風鈴 
月の出のすこし手まへでたち止まり 
宥されてわれは生みたし 硝子・貝・時計のやうに響きあふ子ら 水原紫苑
三日月のひかりをもらひ受胎せり
手をほしがるいきものがゐてながれぼし
コスモスがわたしに気づく日ぐれかな
虫籠を持たされ籠の外にゐる 
ここはかつて海いちがつの昼やすみ 
花八つ手留守番電話の声がする   
雲が切れ海までゆける凍星 
冬銀河水を汲むひと銀の耳 
ほそい手足の雪の角度に傘をさす 
透明のシャープペンシル山ねむる
その奥にゆふぐれのみづ冬椿

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