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卯月 田中惣一郎
自転車の籠に柴犬五月になる
鼻先へ空が押遣るえごの花
虫媒花夏のはじめのくたくたの
子烏の座を選みをり枝暴る
遠に門あり流景に緑さす
新緑の桂に伍する欅かな
野茨は壊るる花と咲きにけり
きはやかに紫蘭の茎の節の色
みな新樹となり一木の枯死を見す
かきつばた鞄に覗くぬひぐるみ
ほろほろと河骨に鉄バクテリア
花菖蒲折皺とてはなかりけり
胴長に石菖なすり沢登り
かはげらもゐもりもゐる溝蓋あけて
又しても青大将か留まらい
実桜の踏みしだかれて痕にのみ
やはらかき辞典一冊さつき咲く
くちくなり夏川黒き昼餉どき
栴檀の花落ちつづく恢復期
寝かしつけて卯の花散らす片辺
石垣の隙が蛇吐く花うつぎ
花うつぎ見ねば忘れて空の貌
柱廊のうつぎ溜りとなりにけり
邂逅に卯月野は弧をなすばかり
麺麭を焼くためだけの火や卯月寒
瑕新た木の下闇のしほれ花
幼くて懇ろに抜く蟻の脚
渦なして雲ふつ飛びぬほととぎす
ばらの色花より外れ吹かれけり
いつかしらつるばらつたふ水は雨
ぬるきサイダーと宿根草の庭
定家葛の花咲くまとふ桜の木
光沢の裂けてざくろの花出だす
台湾栗鼠幹を枝への朴の花
揚羽蝶日輪曳ける二頭立
睡蓮や誰にも言はず好きな色
雲ひとつふたつと育てつつ昼寝
茶につかふ水しまひあり柿若葉
うはごとに頷き返す冷蔵庫
犬川やいよいよ大き誘蛾灯
擬宝珠の花の頭のふくれをり
たまゆらに莕菜乗せたる真鯉かな
息づける泉に揉まれ顔写真
太藺の穂風に起されすぐさま寝
雨蛙これの石より濡れてをり
雲の上にプール開きの笛が鳴る
棗咲く枝満杯にして小さ
公園は日闌けてからが氷菓子
長考に蚊取線香ありにけり
あぢさゐの花たることに疎きかな
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