2024-11-23

生木 クズウジュンイチ 作品50句






 

生木  クズウジュンイチ

水が来るどこか遠くの猫柳
薬効く雨の昼間の沈丁花
土手が春川のむかふと平行に
窓枠を蜂の歩いてかさつく日
朧夜の話し相手がそつとゐる
さへづりや畳の部屋に招かるる
花冷の肩に手を置く写真かな
うぐひすを昨日見てゐるうすあかり
空室へガスの検針つちぐもり
寝ころんで右の手枕梨の花
すれちがふ遅日に鈴が鳴つてゐる
レシートをたまによく見る花の雨
濃山吹すのこ伝つて蕎麦のみづ
青梅や胸引き寄せてさかあがり
蓋のある水路伝ひのみなみかぜ
金魚鉢はさみ将棋をしてやめる
眠つてと言うて二人のほととぎす
ががんぼの隣を夜が過ぎてゆく
退職や鳥の一羽がかはせみで
梅雨時の親子の断面が平ら
囮鮎曳かれて淵に横たはる
張りながら油光りの蜘蛛の糸
アフリカの面に西日の留守の家
蟻の世の砂がすべてのあけくれで
仙人掌の花は唐突犬は雄
天蚕の森がゆがんで雨後の襞
泥靴が乾き始めて韮の花
めいめいがめまひの昼の造り滝
山風は萩を運んでうらごゑで
手の揃ふみづにゆかりのをどりかな
見渡せばひとのいとなみ鉦叩
カンナは緋うまれながらに唄の家
秋風が松をたたんでやがて海
鹿跳んで跳んで遠くに数を増す
まつすぐな池のしあはせ彼岸花
鯊舟が帰る運河の行止り
十月の終ひが晴れて立ち話
うそ寒をのぼりつめれば崖のきは
土熟れて茸へ雨のひとしきり
ぼそぼそとしぐれて対の煙出
はつ雪のちららに藪の鳥の数
空室へ風を呼びこむ鯨かな
抱き合つてすぐに離るるラガーマン
鉈伐りの生木がにほふ霙かな
ソーセージ榾の強火に裂けさうな
まひるまの雨の枯野を今の人
うみかぜもすゑのこざかな冬の虹
火事消えて子供が犬を見せてゐる
寒釣の練餌をいつまでもさはる
山奥や霰ついでに整ふ木
 

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