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2025-08-31

岸田祐子〔ビール俳句〕夜に向かってゆく

〔ビール俳句〕
夜に向かってゆく
★THE KERNEL/EXPORT INDIA PORTER/Porter/アルコール度数5.7%

岸田祐子


イギリスのビールの色の夕べかな  阪西敦子

イギリスのビールというと、ビターとかポーター、ブラウンエールなど、ちょっと濃い色のエールビールを思いだす。ビールには、上面発酵、下面発酵、自然発酵の3種類があって、エールスタイルは、上面発酵。発酵が進むと酵母が麦汁の上に浮かんでくるもののことだ。下面発酵は発酵が進むと酵母が下に沈殿するもので、こちらがラガー。自然発酵は、培養されていない酵母を使っているもののことで、現代ではあまり主流ではない作り方だが、ベルギーのランビックという酸っぱいビールなどが有名だ。

歴史的に見るとラガーはエールより新しいビールで、始まりは中世。19世紀以降、世界的に主流となった。日本の大手ビール会社のビールもほとんどがラガービールだ。これは、ラガービールの発酵温度がエールより低く、雑菌が繁殖しにくく大量生産に向いていたため。ただ、ラガーが主流となってからも、ベルギーやイギリスではエールビールが好まれたと聞く。それが本当なのかどうか、調べられていないのだけど、そういわれてみるとイギリスのラガービールを飲んだ記憶はない。

2009年にイギリスはロンドンに設立された THE KERNEL が醸造する EXPORT INDIA PORTER は、こっくりとした黒に近い濃い茶色で夜に向かってゆく味だ。1850年代のインドに輸出していたポーターにインスピレーションを受けて作られたというが、当時のレシピと違うのは現代的なホップを使っているところ。このバッチに使われているホップの MOSAIC と SABRO は、草いきれとまでは言わないが昼間の草を思いだす。


※シリーズ〔ビール俳句〕は今回でいったん終了です。まだまだ暑いですけどね。(西原天気・記)

2025-08-24

岸田祐子〔ビール俳句〕猛禽

〔ビール俳句〕
猛禽
★八ヶ岳ビールTOUCHDOWN/ROCK SMOKE HELLES/Smoke Helles/アルコール度数5%


岸田祐子


二十歳は猛禽麦酒ごくりと一杯目  塩見恵介

この句はちょっと難しい。一つ一つの言葉はわかるのだけど、繋がりが難しいと感じる。まず、「ビールごくりと一杯目」は、わかる。最初にビールをごくりと飲んだということだ。次に、「二十歳」も、わかる。お酒が飲めるようになる年齢。それから、「猛禽」も、わかる。鷹とか鷲とか梟みたいな鳥のこと。難しいのは二十歳と猛禽が「は」で繋がっていることだ。この「は」は猛禽のような二十歳でいいのだろうか。だとすれば、性別に関わらず、筋肉質で特にインナーマッスルが強い。瞳は黄色でまなざしが鋭い。状況分析が的確で判断が早い。というのが、私の中の猛禽的二十歳。

こんな二十歳がビールをごくりと飲んだとしたら、かっこいいことこの上ない。今、私の脳内ではウィザードリーみたいなRPGの主人公がいる。職業、戦士の猛禽二十歳が仲間とモンスターを倒して、ギルガメッシュの酒場でビールをごくりとやっている。隣には同じパーティーの魔法使いや僧侶、忍者などがいて、みんなで今日の戦いについて振り返っている。「あのタイミングでマハリト(火の攻撃の呪文)が効かないのやばかったよな」とか言い合っているのをこっそり聞いてみたい。

そんな場面にふさわしいビールと言ったら、煙の香りが心地よい ROCK SMOKE HELLES だろう。へレスとはドイツのミュンヘン発祥のラガービール。1890年代に人気が出始めていたチェコのピルスナーに対抗して作られたと言われている。軽くてするするいける飲み口とモルトの優しい甘味が特徴。スモークへレスは燻製した麦芽を使っているので鼻から抜ける香りが煙く、そこはかとない焚火感。かつて、人類が狩りをして焚火を囲んだように、猛禽二十歳が率いるパーティもモンスターを倒した後は、心地よい煙に浸りたい。




2025-08-17

岸田祐子〔ビール俳句〕未来

〔ビール俳句〕
未来
★奈良醸造/AS IS/Ordinary Bitter/アルコール度数3.5%

岸田祐子


ビール呷るザハ案でない方の未来  大塚凱

2019年に竣工した新国立競技場の建て替え案が出たのは、2012年だった。その後、改修ではなく、建て替えになることになって、イギリスのザハ・ハディットのデザインが最優秀賞になった。当時、私はこの建て替え計画にたいした関心を寄せていなかったけれど、旧国立競技場の横にある都営霞が丘アパートがどうなるかを心配していた。また、一つ、可愛い団地が消えてゆくのは寂しいが、あの団地があのままの状態であの場所に存続するのは明らかに無理そう。ザハ案の近未来感とは全く親和性がない。しかし、そのザハ案までもが急に白紙となる。

「呷る」とは、勢いよく飲むということ。喉が乾いていていれば、一気に飲むこともある。けれど、「でない方の未来」という言葉に、将来への不安が見えて、味や香りを楽しむために飲むのではない、酔うためのだけのビールだということがわかる。だとすれば、ビールを呷っている人は、霞が丘アパートの住人たちではないだろうか。ザハ案に決まった時も不安や心配があった。でも、ザハ案では、今まで通り競技場の隣りに霞が丘アパートが存続できる可能性がゼロではなかった。それが、急に白紙になるなんて……。とは、私の脳内に立ち上がるストーリー。

そのような落ち着かない日々だとしたら、たまにはビールを持ち寄って住人同士の飲み会を開き慰め合う。酔うためのビールだから銘柄に拘る必要もないが、私なら奈良醸造のAS ISを持参する。Ordinary Bitter とはイギリスのパブで日常的に親しまれているようなエールビールのこと。穏やかなモルトの甘味とホップの香り、なによりアルコール度数が低くてごくごく飲める。ただ、軽いからといって味が薄いわけではない。しみじみとしみじみと美味しい。1杯目はぐーっと呷って飲むとして、2杯目からは、味わって、素敵な未来を想像しよう。




2025-08-10

岸田祐子〔ビール俳句〕 春なのに

〔ビール俳句〕
春なのに
★Cyclic Beer Farm/Ambrée/Saison/アルコール度数6.5%

岸田祐子


川沿いの遊歩道を歩くのが好きだ。運動をするようになってからは、走りにゆくこともある。この川の両岸は緑地帯となっていて、春は花が綺麗。桜だけでなく、辛夷や木蓮、それから椿。人出は多いが、ほとんど近所に住んでいる人らしく、普段着の人ばかりだ。他の季節も、それぞれに良い。夏の緑は眩しいし、秋は落葉の上を歩くのが気持ちよく、冬は川に集まる鳥が可愛い。

春なのにまだ昼なのにビールあけ  須川久

「春なのに」と言っているのは、ビールが夏のものだからだろう。ビールは1年を通して飲まれているけれど、俳句では夏と決められている。だから、俳句のときは「春ですけどね」とちょっぴり付け加えておく。また、「昼なのに」とも言っているから、普段は昼から飲まない人だ。あまりやらない方がよいと言われていることを敢えてするのは楽しい。例えば、鍋から直接ラーメンを食べるとか、行儀が悪いと言われそうなこと。私の場合、一人暮らしなので、やりたい放題にできるのだけど、毎日だとやや気が咎める。この句の人だって、春だろうと昼だろうと飲みたい時に飲めばいいとわかっていても、やっぱり、少しうしろめたい。そういう時は、何か理由があると安心だ。鍋ラーメンなら、洗い物を減らすためとか。この句の場合は、美味しいビールがあるからでよい。

Cyclic Beer Farmは2016年にスペインのバルセロナで設立されたブルワリー。野生酵母と自家培養酵母の混合発酵でセゾンやサワーエールを中心に醸造している。Saisonとはベルギーが発祥のスタイルで、フランス語で季節を意味する「saison」が名前の由来。フランスでは「biere de garde」と呼ばれている。夏の農作業中に喉を潤すために冬から早春にかけて農家ごとに作られていた。Ambréeはフランス北部の農家のビールに発想を得て作られたそう。よく見かけるセゾンに比べると色が濃く、干杏のような甘みでちょっとスパイシー。昼から始めて、夕べまでゆるやかに味わいたい。





2025-08-03

岸田祐子〔ビール俳句〕20歳

〔ビール俳句〕
20歳
★宇宙ブルーイング/宇宙HAZY DDH/ノンアルコール IPA /アルコール度数0%

岸田祐子


最近、ビアパブでもノンアルコールビールを見かけるようになった。全く同じ味とは言い難いし、ビールとして飲むのなら、アルコールがある方が美味しい。ただ、ノンアルコールビールが年々、美味しくなっていることも事実で、私個人は、ビールの代用ではなく新しい麦芽飲料として積極的に飲んでゆきたい。山梨県の大人気ブルワリー、宇宙が手がけたノンアルコールビールは、ヘイジーという濁ったスタイル。アルコールが持つ甘みがない分、ホップの植物っぽさがダイレクトに来て面白い。

ヴィレッジバンガード、略してヴィレバンは、書籍だけでなく、CDや雑貨、食品など幅広く扱う本屋で、サブカルの聖地と言われている。私が行った時にビールがあった記憶はないが、もし、ビールも扱うとしたら宇宙ブルーイングのビールがあったら面白い。

ビール噴く厨二病なのかなあ俺  福田若之

この句の人は、自分が厨二病かどうかを気にしている。差し出がましいけど「大丈夫、立派な厨二病です」と、私が太鼓判を押しておく。そもそも、厨二病でない人は、そんなことで悩まない。大人なのか若者なのか、書かれていないのでわからないが、「ビール噴く」とあるので、故意に振って噴き出すように仕向けたと考えると、比較的若い人。あるいは、実年齢は大人であっても精神が若い人。どちらにしても、悩みといい、ビールが噴くという状況といい、荒々しい若さがある。日本では、20歳を過ぎないとビールを飲むことはできない。だから、ビールが出て来る時点で20歳以上だと想像するが、取り扱い方を見る限り、ビールが好きというわけではなさそうだ。



2025-07-27

岸田祐子〔ビール俳句〕別れには

〔ビール俳句〕
別れには
★海岸醸造/Umibouzu’s wrath/Imperial Stout/アルコール度数11%

岸田祐子


告別式の後に、お昼ご飯を食べて帰ろうということになって、斎場から5分ほどの町の蕎麦屋に入った。それぞれに親しくしている方々だったけれど、この組み合わせで食事するのは初めてで、普段とは違う集まりの後という感じがする。午後から仕事に戻る人もいたのだけれど、一人が「飲むよね?」と言って、瓶ビールを1本頼んだ。お蕎麦屋さんの小さいグラスに注ぎ分けて、献杯して飲むビールはほろ苦い。この句のビールもこんな感じだろうか。

別れにはいつも明日ありビールあり 今井千鶴子

その日は、たまたま有給休暇を取っていて、仕事に戻る必要はなかった。家からそう遠くない斎場だったので、歩いて帰ることにしてみんなと別れる。家に向かってぷらぷら歩きながら、15時から営業するビアパブがあったなと思い出し、ビールを飲みに行くことにした。途中の公園で俳句を作って時間をつぶし、開店と同時に入店する。

3杯飲んで、最後の1杯に選んだビールが、海岸醸造の Umibouzu's wrath だ。英語で「強い」という意味を持つ Stout というスタイルは、黒くなるまで焙煎された大麦を使って上面発酵で醸造されるビールのこと。Umibouzu's wrath はさらに Imperial とついているから、スタウトの中でも特にアルコール度数が強いことがわかる。事実、11%でワインなみのアルコール度数だ。ただ、このビールに関してはそこまでアルコールの強さを感じなかった。苦みが出るほど濃く煮出した麦茶の感じと、プルーンやレーズンのようなドライフルーツの甘さが奥の方にある。飲んでいると、ふいに目頭が熱くなったので、慌てて店を出た。また来よう。



2025-07-20

岸田祐子〔ビール俳句〕明日は明日の

〔ビール俳句〕
明日は明日の
★MAHOWBREW/Juliet/Imperial Gose w/ Balck cherry, Lime, Okinawan Cinnamon/アルコール度数10%

岸田祐子


数年前、同じ美容師さんに担当してもらっているという縁で、当時大学一年生だった女の子と知り合いになった。家が近所ということもあって、彼女が卒業するまでの間、毎年、年末に顔を会わせる機会があった。彼女が二十歳になった年に、「私、もうお酒飲めるようになったんです。だけど、ビールはちょっと苦くって」と話してくれたことがあった。

ビールのむ女子大生と思はるゝ 千原叡子

この句を読んだ時、最初に思い浮かんだのが、彼女のことだった。だからだと思うけれど、ビールを一口飲んで、「わ、苦いっ!」みたいな顔をした女の子が見えた。この句は、女子大生らしい人が一人なのか、誰かと一緒なのか、どんな場所にいるのかなどの説明はなにもない。ただ、一緒にいた年上の誰かに、「ちょっと飲んでみる?」と言われて、口にしたビールだとしたら、寿司屋とか、回るテーブルの中華料理屋などが似合う。そうであれば、この句のビールは、日本の大手ビール会社のラガーだろう。多くの人に好まれているはずだが、女子大生には苦かった。だから今回は、女子大生、いやいや、女子大生だけでなく、苦さが苦手でビールを敬遠している方にお勧めのビールを考えたい。

MAHOWBREWは沖縄、那覇のブルワリー。ここのJulietはとってもとっても美味しかった。スタイルはImperial Gose。ゴーゼとはドイツの伝統的なスタイルで塩を加えて乳酸菌で発酵させたもの。酸味と塩味があって、蒸し暑い日は特に良い。Imperialは、アルコール度数が高めのビールのことを示す。その他、Julietはブラックチェリー、ライム、そして沖縄の香辛料、カラキ(沖縄ニッケイ)を使っているとのこと。りんごは使われていないのに、アップルパイみたいな味がするのはカラキの香りがあるからだろう。色も赤くて可愛いし、なにより全く苦くない。ビールはスタイルごとに味わいが違う。コーヒーとオレンジジュースくらい違う。だから、今日飲んだ一杯が好みに合わなかったとしても、明日は明日のビールがある。



2025-07-13

岸田祐子〔ビール俳句〕血のトマト

〔ビール俳句〕
血のトマト
★のぼりべつ地ビール鬼伝説/シシリアンルージュ/フルーツビール/アルコール度数6.5%

岸田祐子


歓楽の口真つ赤くてビール飲む 飯田蛇笏

「口真つ赤くて」のインパクトが強くて、ヴァンパイアが浮かんだ。ヴァンパイアは、不死の存在で、血を吸って栄養とする吸血鬼。私にとってのヴァンパイアは、萩尾望都の『ポーの一族』なので、この句でビールを飲む人(?)は、永遠の時間を生きる少年、エドガー・ポーツネルだ。

エドガーは、人間の血も吸うけれど、血が手に入らない時は薔薇のスープや薔薇のエッセンスを入れたお茶から栄養を取る。また、人間の世界で、人間に擬態(?)しながら生きているので、日中も活動する。ずいぶん昔に読んだので、はっきりとは覚えていないのだけど、擬態している以上、人間の食事をとることもあるだろう。

ドイツにあるガブリエル・スイス・ギムナジウム(高等学校)4年のクラスにイギリスから二人の転校生がやって来る。エドガーとアランだ。エドガーとアランは二人ともヴァンバイアなのだけど、普通の少年のようなふりをして生徒たちの中に紛れ込む、というのがポーの一族シリーズの中の「小鳥の巣」のストーリー。この作品の中でなら、エドガーとアランが歓楽街に出かけてビールを飲むエピソードをなんとかねじ込める。

五月祭(学園祭)の準備の買い出しで街に出かけた二人は、ヴァンパイアだということがバレそうになる。追手を巻くため、人に紛れてパブに入って、その際に飲むのが、鬼伝説のシシリアンルージュ。イギリスから転校してドイツに来た二人が、なぜ、北海道のブルワリーで作られたシシリアンルージュを飲むのか? ということは気にしないでいただきたい。

ポーの一族では、エドガーたちヴァンパイアが特にトマトを好むということはない。けれど、藤子不二雄の『怪物くん』に登場するドラキュラは、血の代用としてトマトジュースを飲む。だから、エドガーとアランにもまずはトマト味のビールをお勧めする。このビール、飲んだとたんにトマトがきて、それからふーっとバジルが香る。ほんの少し塩味もして、スープのような一杯だ。


≫地ビール「鬼伝説」ウェブサイト

2025-07-06

岸田祐子〔ビール俳句〕見飽きない

〔ビール俳句〕
見飽きない
★Guinness & Co./GUINNESS/Stout/アルコール度数4.5%

岸田祐子


生ビール泡流る見て愉快かな 高濱年尾

俳句を読む限り、高濱年尾の好みのビールスタイルは、ナイトロだ。年尾はホトトギスの2代目の主宰で、私はホトトギスの誌友だけれど、結社にいても虚子に比べてエピソードを聞く機会が少なく、なんとなくその人柄はベールに包まれている。ただ、年尾がナイトロを詠んだ句を二つ見つけてから、俄然親近感がわいた。実は、手元にある虚子編の新歳時記には、ビールは載っていない。ビールがいつからホトトギスの歳時記に加わったのか、調べてはいないのだけれど、虚子選の雑詠選集にもビールの句はなかった。

この句は、「泡流る見て愉快かな」と言っているので、やはり泡に特徴があるナイトロビールのことだろう。また、「生ビール」として、お店でタップから注がれるビールに限定している。ナイトロでドラフトといえば、やっぱりギネスだ。ギネスのホイップクリームみたいな泡が盛り上がって流れるのを見るのは楽しい。また、シャムロックと呼ばれるクローバーの葉っぱの絵を、泡の表面に描いてもらうこともできる。シャムロックを描いてもらえるのは、ドラフトのギネスならではで、同じギネスであっても、缶の泡では描けない。

先日、ホトトギスの友達がスコットランドのウィスキー醸造所を巡った時の写真を見せてくれた。メインはウィスキーなのだけれど、ちょいちょいパブでビールも飲んでいる。そのどれもが全部、美味しそう。彼女に影響を受けて、東京にあるアイリッシュパブに行った。バーテンダーのなめらかな動きから、ギネスのクリーミーな泡が生まれる様子は、いつ見ても、いつまで見ても、見飽きない。



2025-06-29

岸田祐子【ビール俳句】オーストラリアの海

【ビール俳句】
オーストラリアの海
★Mountain Culture/Scenic Route/Session Hazy IPA/アルコール度数4%

岸田祐子


冷蔵庫横列したるビール見よ 阿波野青畝

酒屋で、ずらっと並んだクラフトビールを前に、どれを買おうかあれこれ迷う時間は、とても楽しい。酒屋で選ぶ楽しさは、種類が沢山あるところ。ブルワリーに併設されたショップでは、そこのブルワリーで作られたビールだけが売られていることが多いけれど、酒屋には、色々な国の色々なブルワリーのビールが並ぶ。また、クラフトビールは、個性的なデザインの缶が多く、大きい冷蔵庫いっぱいに並ぶ様はとても華やかで、「横列したるビール見よ」と言うのも頷ける。私なら「ビール見よ!!!」と感嘆符を多めにつける。

ビアパブで、オーストラリアで働いていた方と話す機会があった。私は、オーストラリアについて、ほとんど何も知らない。知っていることといえば、南半球にあること、自然が豊かでコアラやカンガルーが生息しているということくらいなのだけれど、オーストラリアはビールがとても美味しい国なのだそう。彼女の話によると、オーストラリアのビールは、アルコール度数が5%くらいのものが主流で、ペールエールや IPA が人気とのこと。また、オーストラリアで、ビールを販売できるのはボトルショップと呼ばれる酒屋だけで、スーパーなどでは取り扱えない。「オーストラリアのボトルショップってすごいんですよ」と言いながら、彼女が見せてくれた動画は、圧巻、圧巻、圧巻の品揃え。とにかく広い空間に、大きな冷蔵庫がいくつもあって、上から下まで全部がビール。

数日後、何気なく入った酒屋で、オーストラリアのビール、Scenic Route を見つけた。スタイルは Session Hazy IPA で、アルコール度数が低く、フルーティーな味わいに濁った外観が特徴のスタイルだ。青畝は、オーストラリアに行ったことがあるのだろうか。明るく軽いその味は、オーストラリアの海に通じる。




2025-06-22

岸田祐子【ビール俳句】泡と液体

【ビール俳句】
泡と液体
★奈良醸造/LIGHTHOUSE/Micro Porter/アルコール度数3.5%

岸田祐子


ビールの泡については、一家言持っている人が少なくない。泡と液体の比率は3:7が良いとか、きめ細かい泡となる素材のグラスとか、良い泡を作るための注ぎ方とか、泡にまつわる話題をよく耳にする。一方、泡は不要という人も結構いて、海外からの旅行者が、ビアパブで「泡はいらない」と言っているのを見かけたことがある。ちなみに私も泡はいらない派。泡の分もビールを注いでもらえる方が嬉しい。だから、家で飲む時は、泡を立てすぎないよう注意深く注ぐ。ただ、ナイトロ仕様のビールは別で、これは盛大に泡を立てたい。

ビール注ぐ泡盛り上り溢れんと 高濱年尾

奈良醸造のLIGHTHOUSEは、アルコール度数が3.5%のナイトロ仕様のMicro Porter。ナイトロとは、とろっとしたクリーミーな泡が特徴のビールのことで、ギネスが有名だ。一般的なビールは、二酸化炭素が注入されているのだけれど、ナイトロは、窒素が注入されている。窒素は二酸化炭素に比べ分子が小さいためクリーミーで口当たりの良い泡となる。また、注ぎ方にもコツがあって、まず最初に振る。それから、缶をグラスに突き刺すように垂直にして一気に注ぐ。そうすると、わーっと盛り上がった泡が、滝(カスケード)のように落ち、波のようにうねる。この現象を「カスケードショー」と言う。「泡盛り上り溢れんと」とあるから、この句の人もカスケードショーを見ているのだろう。細かい泡が滝のように落ちてゆく様子は、いつ見てもうっとりする。

ヘーゼルナッツのプラリネが入ったチョコレートみたいな味のLIGHTHOUSEは、3.5%という軽さに反して、しっかりした味わい。Micro Porterというスタイルは初めて聞いたのだけど、どうやらアルコール度数の低いポーターのことらしい。ちなみにポーターとは、イギリス発祥のスタイルで焙煎した麦芽を使った上面発酵の黒ビールのこと。荷物を運ぶ労働者(ポーター)に人気があったことからポーターと呼ばれるようになったと言われている。ただし、こちらも諸説あるようだ。






2025-06-15

岸田祐子【ビール俳句】冷蔵庫にいつも

【ビール俳句】
冷蔵庫にいつも
★Brasserie Knot/MIYOSHI/Irish Red Ale/アルコール度数4.5%

岸田祐子


自宅の冷蔵庫には、だいたいいつもビールがあるけど、銘柄はいつも違う。クラフトビールは、枇杷やさくらんぼ、あるいは鯵や鰯のように旬のある生鮮食品と似ていて、塩や砂糖を買うのとは気分が少し違う。もちろん、通年販売している定番の銘柄もあるけれど、定番とされているものでもバッジごとにホップの種類や微妙にレシピが変わっていることがある。また、日々、新しいビールがどんどん生まれて来るので、飲んだことのないビールを飲んでみたいという理由も大きい。それでも、冷蔵庫にいつも入っていたら幸せというビールがいくつかある。

夫逝きて麦酒冷やしてありしまゝ  副島いみ子

この句の妻はビールを飲まない人だろう。お互いに日常的に飲んでいたのであれば、こんな風にしみじみ「麦酒冷やしてありしまゝ」とは言わない。夫だけが飲むビールだからこそ、冷やされたままビールが減らないことを寂しく思う。料理をしなくても、生活をしていれば、冷蔵庫を開ける機会は、日に何度か必ずあって、開ける度に夫が好きだったビールが目に映る。

ややクラシカルで控えめな印象があるアイリッシュレッドエールというスタイルの MIYOSHI は、北海道のブルワリー、Brasserie Knot が作るビールだ。どことなく紅茶の雰囲気を持つMIYOSHIは、赤味を帯びた琥珀色と、モルトのほんのりした甘さが特徴で、ゆるやかな心地がずっと続く。ビアパブでこのビールに出会った時、隣にいたお客さんが、1杯473mlの US パイントで8杯飲んで帰っていった。さすがにびっくりしたけれど、彼の気持ちはよくわかる。



2025-06-08

岸田祐子〔ビール俳句〕相性

〔ビール俳句〕
相性
★Sierra Nevada Brewing/Sierra Nevada Pale Ale/American Pale Ale/アルコール度数5.6%

岸田祐子


おつまみの薄く軽しやビール飲む 高田風人子

「マリアージュ」という言葉がある。フランス語で「結婚」を表すこの言葉は、食べ物と飲み物の組み合わせが良いこと、特にワインと料理の組み合わせについて言う。もちろん、ビールと食べ物の組み合わせにも相性がある。楽しいだろうなと思いつつ、私自身は、ほとんど気にしない。理由はいくつかあるけれど、一つには、ひとりでビールを飲むことが多いから。お店で飲むときは、一人で食べ切れる量に上限があって色々な種類の料理を試すことが難しいし、自宅で飲むときは、自炊であれこれ作るのが面倒くさい。

ビールを飲むときのおつまみに注目するなんて、この句の人は豊かで余裕がある。それで、なんとなく美しく盛り付けられた生ハムとか、薄くスライスされた胡瓜などを思い浮かべてみたのだけれど、妄想は全く捗らずにしぼんだ。やっぱり、薄い、軽い、ビールに合う、この3つの条件を兼ね備えるとしたら、ポテトチップス。もちろん、塩味。

カルビーの公式webサイトによるとポテトチップスは1853年にアメリカ・ニューヨーク州のムーン・レイク・ハウスホテルのレストランのシェフが、客の要望に応えて紙のように薄くスライスしたじゃがいもを揚げたことが始まりとのこと。そういうことならやっぱり、アメリカンペールエールのSierra Nevada Pale Aleを飲みたい。ペールエールはイギリスが発祥のホップやモルトが豊かに香るビールで、イギリスの伝統的なスタイル。そして、このスタイルがアメリカに渡って、ホップがより華やかに香るアメリカンペールエールが誕生した。

1980年に生まれた Sierra Nevada Pale Ale は、Great American Beer Festival で4度の金賞に輝き、全米No.1の称号を持つビール。初めて飲んだ時、シトラスと草の香りが心地良く、大好きになって、ブルワリーのロゴが入ったパイントグラスを買った。新しい味がどんどん出て来るクラフトビールの中で、Sierra Nevada Pale は、いつも美味しく、いつまでも美味しく、永遠に美味しい。




2025-06-01

岸田祐子〔ビール俳句〕らしさ

〔ビール俳句〕
らしさ
★Stone Brewing/Stone IPA/WEST COAST STYLE IPA/アルコール度数6.9%

岸田祐子


俳句のコミュニティの中で「ビールも好き」ではなく「ビールが好き」という人との出会いは意外と少ない。私は「ビールが好き」なので、選べるならビールを飲む。そして、美味しいビールを飲んだ時、そのことを誰かと共有したくなる。

ビールなら頂くワイン駄目だけど  山田弘子

この句を見つけた時に、「えーっ、弘子さんってビール党だったの!?」という驚きがあった。一度もお会いすることはできなかったが、ホトトギスの先輩で、私が伝統俳句協会の新人賞をとった時の審査員。ちょっと厳しめな批評だった。できたら、ビールの話をしてみたかった。もちろん、「ビールなら頂く」と言っている人物が、作者であるとは限らない。ただ、山田弘子がビール党だったらとても嬉しい。

日本の一般的なラガービールとワインの味はかなり違うけれど、ビールの中には、ワインに似た味のものもある。特に、葡萄の香りを持つ「Nelson Sauvin」というホップを使ったビールは、スタイルにもよるけれど、白ワインやシャンパンのような味わいがあって、ワイン好きの方に紹介すると喜ばれる。ただ、この句の人は「ワインは駄目」とはっきり言っている。そんな人が、飲みたいビールは、ビールらしい味のビールだろう。もちろん、ビールらしさをどこに求めるかは、人それぞれで、正解も不正解もないが、私の中の王道中の王道と言えば、Stone IPAだ。

WEST COAST STYLEのお手本とも言われているStone IPAは、1996年にアメリカのカリフォルニアで生まれたStone Brewingの設立一周年記念のビール。透き通った黄金色、華やかな柑橘と草の香り、そして鮮烈な苦みが特徴だ。このビールの登場によって今までネガティブに受け止められていたビールの苦みが、ホップのアロマやフレーバーを楽しむというポジティブなものとなった。

初めてIPAを飲んだのがいつだったのか、今となっては思い出せない。たぶん2003年ぐらいだったけれど、銘柄も味も忘れてしまった。本当の意味で、IPAに出会うのは、それからずっとあとの2010年頃。その中の一杯がStone IPAだった。IPAとはインディアン・ペール・エールの略で、ペール・エールに大量のホップを入れたもののこと。ホップの香りと苦みが非常に強いのが特徴だ。IPAの中でも、アメリカの西海岸で生まれたスタイルのことをWEST COAST STYLE IPAと言う。最初にStone IPAを飲んだ時、びっくりするほど苦かった。そして、それ以上に華やかな柑橘と駆け抜ける草の香りに射抜かれた。



2025-05-25

〔ビール俳句〕きつね 岸田祐子

〔ビール俳句〕
きつね
★FLORA FERMENTATION/Kitsune/Japanese Light Lager/アルコール度数4%

岸田祐子


部屋の3カ所に本を積んでいるエリアがあって、そのうちの一つが何度目かの雪崩を起こした。そろそろ本棚が欲しい、それよりもう少し広い家に引っ越しできたら、などと思いながら片づける。その途中で、勝手に開いていた句集のページに、「中学のビールパーティ」という言葉を見つけた。

中学のビールパーティ君行くか  後藤比奈夫

「中学のビールパーティ」って、どんなパーティだろう。「中学校の同窓会のビールパーティ」とか「中学校の教師限定ビールパーティ」などいくつか考えられるけど、それにしても大胆すぎる省略。いろいろと考えてみた結果、「中学の同級生が作ったブルワリーのビールパーティ」に決めた。長くて説明的だけど、これなら、下五の「君行くか」も同級生を誘う言葉として自然だし、ただの「パーティ」ではなく「ビールパーティ」と限定していることも納得できる。そして、「ビールしか飲まない、飲ませない」という決意まで見えてくる。

日本のクラフトビールの始まりは、1994年の酒税法改正でビールの最低製造数量基準が2000kl から 60kl になったことによると聞く。少量からの醸造が可能になって、地域密着・小規模醸造のビール会社が参入しやすくなったということのようだ。きちんと調べたわけではないが、日本では、コロナ禍以降、ますます新しいブルワリーが増えて、酒屋を覗くたび、ビアパブに入るたびに、新しいブルワリーとの出会いがある。ブルワリーごとに特色はあるが、大抵の場合、どこのビールも全部美味しい。だから、どのブルワリーのビールパーティにだって喜んで参加したい。ただ、一つだけ選ぶとしたら、今の私は FLORA FERMENTATION のビールパーティに行ってみたい。

FLORA FERMENTATION は滋賀県で出会った醸造家3名が設立したブルワリー。地ビールレストランのアルバイトで出会った3人は、いつか自分たちのブルワリーを立ち上げたいと語り合い、それぞれに留学やブルワリーでの修行を経て、FLORA FERMENTATION を立ち上げた。私が初めて飲んだフローラのビールは Kitsune(キツネ)という名前で、お米を使ったもの。透き通った綺麗な味は、ポップコーンみたいに香ばしく、明るく軽く楽しいラガーだ。

笹塚のビアバーPINTOLOGYにて、タヌキ絵柄のグラスで飲んだKitsune

2025-05-18

岸田祐子〔ビール俳句〕ナポレオンも愛飲の

〔ビール俳句〕
ナポレオンも愛飲の
★Bass Brewery/BASS PALE ALE/Classic English-Style Pale Ale/アルコール度数5.1%


岸田祐子


楽しげやビールにどかとウイスキー  星野立子

ホトトギス歳時記で季題となっているお酒は、ビールと焼酎と日本酒。ウイスキーは季節に紐づけられていないけれど、晩秋から冬が似合うと思う。でも、ハイボールなら夏がいい。

この句は、「どかと」という言葉に大きさや重さがあって、ウイスキーに目がいく。ウィスキーのひとつのイメージに、オーセンティックなバーで丸い氷をからんとゆらすというものがあるけれど、「楽しげや」という言葉に、仲間とわいわいやっている賑やかな光景が浮かぶ。どんなウイスキーなのかの説明はないけれど、どかと置かれたら、歓声が起こるような特別なウイスキーだ。

「イギリスではウイスキーのチェイサーとしてバス・ペールエールを飲むんだって」、そう教えてくれたのは、ウイスキー好きの当時の上司。今よりずっと若くて、一人で飲みに行くようなことがほとんどなかった頃の私が、その言葉に押されて初めて飲んだエールスタイルのビールがバス・ペールエールだ。お店の照明が暗かったからか、少し赤味のある透き通った琥珀色に見えた。味は、苦すぎず、ほんのりと甘い。それまでは、ビールは苦いし、どれを飲んでも同じ味だと思っていたので、こんなビールもあるのかと驚いた。

バス・ペールエールを作っているバス・ブリュワリーの創業は1777年。ナポレオンが愛飲していたとか、タイタニック号に積み込まれていたとか、そういった記録が残っていると聞く。また、19世紀のフランス人画家、エドゥアール・マネの油彩「フォリー・ベルジェールのバー」には赤い三角系のラベルがついたバス・ペールエールの瓶が描かれているので、古くから多くの人に愛されてきたビールで間違いないだろう。日本では2018年に正規輸入の取り扱いがなくなった。以降、気軽に飲むことができないのが残念だ。

2025-05-11

岸田祐子〔ビール俳句〕瓶ビールではなく缶ビール

〔ビール俳句〕
瓶ビールではなく缶ビール
★BAEREN/レモンラードラー/ラードラー/アルコール度数2.5%

岸田祐子

缶ビール飲む大寺のその一間  波多野爽波

豪徳寺の受付のある建物は、奥に座敷があって、窓から中が少し見えた。喪服姿の人が集まって、会食していたことがあったので、この句はそういうときのビールかなと思った。でも、葬儀や法事の時に出てくるビールは瓶のことが多い。少なくとも、私が参列したことのある法事で缶ビールがあったことはなく、ビールどころかジュースやウーロン茶も瓶だった。

もう一つ、「その一間」という言葉にどことなく広々とした余白があって、人が大勢いるような感じがしない。葬儀や法事でないのなら、習い事など趣味の何かだろうか。ヨガ教室を寺のスペースで開催するというのはよく聞くし、句会が開かれることもある。

句歴が長くなるにつれ、お酒を飲みながらの句会に驚かなくなった。なにしろ、実際に会ったことのある俳人のほとんどがお酒好きで、句会の後はだいたい飲み会となる。もちろん、飲まない人もいるけれど、体感的な割合は9対1くらいで、飲まない人の方が少ないし、飲みながら作句するという人も知っている。

早めに会場に来て、飲みながら俳句を考えるならば、レモンラードラーが軽やかだ。「ラードラー」とは「自転車乗り」を意味するドイツ語で、ビールをレモネードで割った飲み物。夏のドイツで飲まれたのが始まりと聞く。障子や襖を開け放し、草木を眺めて飲む味は、ときどき通る涼しい風だ。酔っ払っていなくても、寝転がってしまいたい。



2025-05-04

岸田祐子〔ビール俳句〕冷えきって縮む?

〔ビール俳句〕
冷えきって縮む?
2nd Story Ale Works/Bingo!/Pale Ale/アルコール度数5%

岸田祐子

冷えきりてすこし縮みしビールかな  成瀬正俊

ビールは冷えていればいるほど美味しいという考え方がある。お店によっては、ビールだけでなくグラスも冷蔵庫で冷やしたものを提供してくれることがあるので、少なくとも日本には、ビールは冷たければ冷たいほど良いという価値観があるように思う。一方で「ヨーロッパではビールは常温で飲むんだよ」と教えてくれた人がいた。きっと、個人の好みの他に気候風土によっても、美味しいと感じる温度に違いがあるのだろう。

この句は「ビールが冷え切っていて少し縮んだ」と言っている。ビールが縮むとはどういうことだろうと考えてみて、一つには泡立ちのことなのかもと思った。一般的にビールは温度が高いと泡が立ちやすく、低いと泡が立ちにくい。ビールの泡にこだわりがある人は少なくないし、チェコの有名なビール「ピルスナーウルケル」には「ミルコ」という泡だけを注ぐという飲み方があるくらい。でも、泡にこだわりがある人だったら「縮みしビール」ではなく「縮みし泡」と言いそうな気もする。

あたりまえだけど、ビールの容量自体は、飲むとか、こぼすとかしないと縮まない。まぁ、酔っていれば目の錯覚ということはあるかもしれないし、オカルト的な理由で縮んだということも全否定はしたくない。だけど、もっとちゃんと縮むものってなんだろう。

つらつら考えていて、ふと、香りのことかも、と思った。香りの表現としては、「冷たいと縮む」というよりは、「温まると開く」というほうが一般的だと思うけれど、要するに「冷たすぎると香りを感じにくいよね」ということだ。

そういえば、年末に飲んだペールエールのBingo! は、すっきりしていて軽く、するする飲めた。少しすっきりし過ぎかなと思いつつ、美味しく飲んでいた何口目かに急にふわっと香りが広がった。微かに甘い、オレンジとか蜜柑みたいな柑橘の感じ、それからほんのちょっとビスケットみたいな感じ。それがとっても美味しくて、梅が開いたみたいな嬉しさで、さっきまでの温度はこのビールには少し冷たすぎたのだと思った。もしかしたら、この句のビールもこれから開いてゆくところなのかもしれない。