俳句甲子園をお伝えします(上) ……佐藤文香
今年で第十回をむかえた俳句甲子園。
生みの親である夏井いつき氏が、歌合せから着想を得たこの大会、どんなものかを簡単に説明すると、まず5人1チームの2チームが赤白に分かれて1句ずつ出し合います。相手の句に対する質疑と応答を3分間ずつ(決勝トーナメントは4分間)したところで、審査員が赤か白かの旗をあげて勝敗を決めます。それを3試合行い、2勝したチームが勝ち(決勝リーグは5本中3本先取)という、高校生の俳句の勝負です。
全国より予選を勝ち上がってきた 36校が、松山に集結しました。
今年は審査員も超豪華で、黒田杏子さん、高野ムツオさん、正木ゆう子さんをはじめ、準決勝・決勝は13名の審査員によって判定されました。圧巻。→【写真1】
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8月18日
予選Eブロック第一試合 兼題「青葉」先鋒戦
(赤) 松山東高校A v.s. 甲南高校 (白)
実は松山東高は母校でして、俳句部には何度か足を運び、練習に口をはさんだり、一緒に吟行句会をしたりました。共学校らしく女2人・男3人のチーム。
一方甲南高校は全員男子、その中に週刊俳句賞次席の越智友亮が。また、松山にはいらっしゃっていませんでしたが船団の塩見恵介先生が指導なさっています。
これは私にとっては見なければならない試合。特設会場が11箇所に設置されて俳句甲子園一色の大街道を、歩いてEブロックの会場へ。
松山東A 固まらぬゼリーの中を青葉風
v.s.
甲 南 足癖を直して青葉時雨かな
(松山東Aの句に対して)
甲南「固まらぬゼリーも青葉風もやわらかくって抽象的なものなので、もっと具体的なものを持ってきたほうがよかったんじゃないでしょうか」
松東「青葉風という季語からは、青葉の色や匂いが感じられるので、具体的に見えてくると思います」→【写真2】
甲南「ゼリーの中を風が通るのであれば、別に青葉風ではなくてもいいと思うんですよ。ゼリーって言ったら夏らしい食べ物なので、ここはもっと夏を感じさせる『南風』にしたほうがいいと思うんですがどうですか」
松東「この句では爽やかさを詠みたかったので、南風のような熱気を帯びた風ではなく、青葉風がいいと思います」
甲南「固まらぬゼリーの中を青葉風だと、なんか散文的で一本調子になってしまうので、切れ字を使って一度切った方がいいのではないでしょうか」
松東「この句は作者の感性で成り立っているので、このままでいいと思います」
甲南「この句のよさはわかったんですが、ゼリーの中の『の中』はいらないのではないでしょうか」Time up!!
(続いて甲南の句に対して)
松東「足癖を直して青葉時雨かなということですが、足癖を直した後に持ってくるのは、別に青葉時雨じゃなくてもよかったんじゃないですか」
甲南「例えば『口癖』などではなく、『足癖』ということで足が見えてきて具体性があると思うんです。そこに青葉時雨が降る、雨は静けさの象徴ですよね、その音を聞くという心の余裕があって、ここは青葉時雨でいいと思います」→【写真3】
松東「今、雨は静けさの象徴とおっしゃいましたが、青葉の生い茂っているところに降る雨だと思うので、静けさという感じではないのではないでしょうか」
甲南「青葉時雨は、雨上がりに葉っぱから一滴ずつ落ちる雫のことなんです。ですから静けさが感じられると思います」
松東「今の説明ですごくよくわかりました。ですが、それでしたら青葉時雨『かな』とせずに、青葉時雨、と名詞で終わった方が、青葉時雨がより際立つと思うんですがどうでしょうか」
甲南「ここでは『かな』が余韻を生んでいる、『かな』という切れ字の効果が生きた句だと思います。」Time up!
「判定!」(審査員3人が旗をあげる)……「赤2本・白1本で赤、松山東高の勝利です!」
アナウンサー「審査員の先生方の配点内訳をご紹介します。坊城俊樹先生…創作点赤7点、白6点、白に鑑賞点が1点入りまして7対7の同点ですが、創作点の高い赤に旗を上げていらっしゃいます。岡本阿蘇先生…創作点赤8点、白7点、鑑賞点が赤に1点入りまして9対7で赤。橋本薫先生…創作点は赤白ともに7点、鑑賞点が白に1点入りまして、7対8で白に軍配が上がっています。まずは坊城先生、一言寸評をお願いします」
坊城先生「まぁ、第一試合ですので、ちょっと緊張もしてると思いますが。審査はね、作品が第一です。ディベートによって作品の評価が変わることはありません。だから作品が大事。だけど、ディベートによって作品のよさは変わらないんだけど、ディベートで審査員が作品のよさに気づかされるときがある。だからディベートも大事です。作品も大事、ディベートも大事。ここは激戦区ですから、しっかりがんばってください」
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どうです、とても紳士的でしょう。各審査員(予選は3人)はそれぞれの句に創作点(10点満点)と、鑑賞点(どちらかのチームに1~5点)を与え、総合点の高いチームの旗を上げるという形です。これが先鋒戦で、この後、中堅戦・大将戦とあって、2本以上取ったほうが勝ち。
ちなみにこの試合は、中堅戦:「青葉光規則正しく揺れる髪」v.s.「木陰に碑青葉をまたぐロープウェイ」が0-3、大将戦:「手のひらで測る青葉の匂ひかな」v.s.「床屋での会話が好きな青葉風」が1-2。甲南が2本取ったので2-1で甲南の勝ちでした。
予選ブロックは3校の総当たり戦。これでブロック1位になると、準々々決勝に進めます。
負けたチームは、すぐ敗者復活戦の句を作り始める。敗者復活戦・準決勝からが翌日8月19日です。敗者復活戦にも予選と決勝があって、予選はチームで写真1枚と俳句1句のコラボ、決勝は俳句1句に対して審査員から1分間の質疑応答。それを勝ち抜いた高校が、準決勝から再び参戦するのです。
(次号に続く)
松山市を代表する商店街、大街道の巨大アーケードの下で、11の予選が同時進行
2007-08-26
俳句甲子園をお伝えします(上) ……佐藤文香
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