俳句甲子園をお伝えします(下) ……佐藤文香
俳句甲子園二日目は、松山市総合コミュニティーセンターにて。
前日の予選を勝ち抜き、準決勝進出が決まっているのは開成高校Aチーム、甲南高校、幸田高校翡翠チーム。戦いは残る一枠をめぐる敗者復活戦から始まります。
まずは、決勝リーグ進出チームと地方予選優勝チームを除いた11校が、1校ずつ写真と俳句のコラボレーションを提示し、プレゼンテーションします。それを勝ち抜いた沖縄県立首里高校、開成高校B、徳島県立富岡西高校【写真1】の3校を含めた、25校による敗者復活決勝戦。各チーム代表者が披講した一句に対して審査委員より質問があり、代表者が答えます。各審査委員は創作点・鑑賞点によって評価し、その合計が最も高いチームが準決勝に進みます。
見事その枠を勝ち取ったのは昨年の優勝校、熊本信愛女学院高校。
言霊の国にうっすら黴の花
言葉の重みを理解し大切にする姿勢が、作品、質疑応答から伝わってきました。
しかし準決勝で、その信愛女学院は、幸田高校翡翠チームに惜しくも敗れてしまいます。【写真2】
一方、開成Aと甲南の試合は開成の圧勝。
というわけで、決勝戦は開成A v.s.幸田翡翠。2年ぶり3回目の優勝を狙う開成と、初優勝を目指す幸田の戦いです。兼題は「山」。
【写真3】
先鋒戦
開成「ジッパーをきゆつと一気に山開き」
幸田「夏草や山道細くなってゆく」
12対1で開成の圧勝。夏草と山道のイメージの重複が惜しく、上五を「かなかなや」などにしたらいいのでは、との開成の指摘もうなずけます。対して山登り前に気を引き締める感覚を、おおらかに詠んだ開成の句は高評価でした。
次鋒戦
幸田「夏山を越えゆく雲のバッファロー」
開成「剣山のさびしく乾く夏座敷」
8対5で、接戦ながら開成の勝ち。高柳克弘審査員は「開成らしさがいい形で現れた」と開成の句を評価。「山」という題で「剣山」を詠んだのも意外性がありました。しかし雲のバッファローの迫力や夏らしさも、捨てがたかったように思います。
中堅戦
開成「朝の星山滴りに還りけり」
幸田「山頂に流星触れたのだろうか」
2対11で幸田の圧勝。「青春性、人間の心と天体との一体感。加えて、大きな山のスケールが俳句で詠めるということに感動いたしました」とは、幸田に創作点10点をつけた黒田杏子先生の弁。中村和弘先生も、「俳句のツボにはまっていない面白さがある」と絶賛なさいました。一方、「開成の方が、句のひだをわかってほしいという気持ちが強いように感じました。」と正木ゆう子先生。非常にレベルの高い戦いでした。
副将戦
幸田「父の故郷案山子こきざみに揺れ」
開成「山高帽ひつくり返し豊の秋」
8対5で開成。ここで開成の優勝が決まりました。山高帽をひっくり返すことで、手品のように現れる実り豊かな秋の風景、その場面転換の妙に、旗が多く上がったようです。父の故郷で案山子が揺れている、しかもこきざみである、その感覚もなかなか若者には詠めません。「都会の坊ちゃんにはわからないでしょう」と、黒田先生。
大将戦は句のみを見て審査員が旗を揚げます。
開成「鉱山をやはらかく呑む花野かな」
幸田「蝉声を吐き出している三ヶ根山」
これも9対4で開成。圧倒的なディベート力、付け焼刃でない俳句の力で、開成が優勝しました。
【写真4】
開成Aのキャプテン森田君は、「あー嬉しい。嬉しいです。悪者と言われようが、こわいといわれようが、都会の坊ちゃんと言われようが、嬉しいです。」と一言。
黒田先生は「開成の人たちは洗練されていて、一句一句をかみしめるようにディベートしてらっしゃる。一方幸田は地声と言いますか、素朴さがあり、こちらも魅力的でした。」
初めて審査員をなさった星野高士先生が「高校生がこざかしい句を作って、こざかしい議論をするのかと心の片隅で思っていたのですが、本当にちゃんと俳句のことを考えていて感動しました。」と、また夏井いつき先生が「ここ2年くらい、ディベートで攻められるのを恐れるばかり、欠点のない小粒の句になってしまう嫌いがあったんですが、今年はそんなこと全然なくて、非常にいい句ばかりでした」とおっしゃったことが印象的でした。
すべての試合のあと、審査員から個人賞が発表されます。
個人優秀賞のうち、好きだったのは「黒南風や馬に正しき眼のかたち(宇和島東高校 小野弾)」や「短調で鳴く蟇フランスは雨か(熊本信愛女学院高校 西口希)」。入選句では「クロールの匂いが教室まで来てる (甲南高校 西川達郎)」など。
同じく入選句の「水虫は風来坊の化身なり」の作者、今治西高校の渡邊結衣さんは、「はじめはみんなに反対されたけど、最後に友達が『そんなに出したいんなら出せば?』と言ってくれたので、この句を出してよかったです」と一言。私も今治西高校に一度だけ指導に行ったのですが、この句に反対したうちの一人でした。いやーよかったです。
そして個人最優秀賞は、決勝戦で審査員の先生方が絶賛された、幸田高校翡翠チームの清家由香里さんの作品。
山頂に流星触れたのだろうか
(了)
■■■
2007-09-02
俳句甲子園をお伝えします(下) 佐藤文香
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 comments:
コメントを投稿