中山宙虫 どーん
大 花 火 痩 せ た 財 布 の よ う に い る 大石雄鬼
「花火。花火だ。確かに音を聞いた。」
自宅にいた僕は、音のする方の窓を開けてみる。しかし、見えない。また「どん」と聞こえる。今度は違うほうから。いったいどこから。マンションやアパートが林立しているこの場所では、ビルの壁に音が反射しているのだ。まるで四方で花火大会が開かれているように。
結局、音で位置は特定できない。外に出てみる……。しかし、ビルたちで花火の片鱗さえ見えない。「どん」「ぱちぱちぱち……」「ばらばらばら……」「ひゅーん」「ばばばばば……」音だけは華やかに聞こえる。さほど、花火を見たかったわけではない。
数人の人たちが音のするほうに顔を向けながら。夜空を見ている。「○○町の花火大会たい。」誰かがそう言っている。間断なく花火の音は続く。さほど見たいわけではなかったのだが……。車を走らせてみることにする。○○町なら、郊外に出れば。そう考えたのだ。エンジンをかける。そして、アクセルを踏んだ。
少し走るとビルなどの谷間にぱっと開いた花火が見える。花火を少しでも見てしまうと、ここまできたのだから、見なくてはという決意めいたものが湧き出てくる。頭の中で、よく見えそうな位置を探している。こころなしか花火大会の方向の道は混んでいてうまく進まない。ぱっと空が明るくなり、さまざまな色がフロントガラスに映る。次には。赤い車のテールランプの列に「どどどどん」と音が降ってくる。いまや、僕の気持ちは焦りに近いものになっている。この渋滞のなかで花火が終わってしまうんではないかと……。
花火はいつもこうやって見てきた。花火大会の日に場所取りなどしたことはほとんどない。若い時分は、花火大会の日くらいはチェックしていたのだが。今では、花火の音で気づくのが常。仕事帰りなどで花火大会の会場に出かける人の列を避けているこのごろなのだ。浴衣姿の少女たちが夜店の前で大きな笑い声をあげていたりする姿を最近見ることもなくなった。ブレーキとアクセルを踏みながら。そんな他愛のないことを考えている。
ますます花火は佳境に向かってゆく。僕は渋滞を避けるために郊外の畑地帯を目指す。ちょっと道は悪いが。人も少ないし。案の定、人もいない。少々遠いが、くっきりと花火が見える場所が見つかった。花火があがる。「ばばばばばば……」。車のエンジンを切って外へ出てみる。ああ、来てみてよかった。次々とさまざまな花火が打ちあがる。遠いながらも、空気を伝わってくる音。次々……。
ふいに光が消えた。「どーん」闇に遅れて音が来た。次の花火を待った。しかし、待っても待っても花火は揚がらない。終わってしまったんだ。 いつになく心躍らされた花火だったが、結局、徒労に近い花火になってしまった。心満たされたというより。ひとりぽつんと畑の中に立っていた自分。花火は僕のうえに降る事はなく、より深い闇を残して終わった。花火を見た記憶はあちこち刺された蚊のあとばかりとなってしまった。現実は擦り切れ気味の日常を持っている僕。花火のしたの人たちも少なからず「終わったね~。」ため息をつきながら現実に帰っているのだろうと思う。まずは、会場を出るための渋滞のなかで。
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2007-09-02
中山宙虫 どーん
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