2007-12-23

『俳句年鑑2008年版』を読む(2)

【俳誌を読む】
『俳句年鑑2008年版』を読む
(2) 「年代別2007年の収穫」を読む

上田信治×さいばら天気



信治●今夜は「年代別2007年の収穫」(p34-)です。 

ページ数を数えてみると…

80代以上 5+1/3p
70代男性 5+1/3p
70代女性 5+1/3p
60代男性 5+1/3p
60代女性 5+1/3p
50代男性 3+2/3p
50代女性 3+2/3p
40代   5+1/3p
30代   5+1/3p
20代・10代 3+2/3p

天気●70代、60代に多くのページが割かれているわけですね。「70代」が現在の「俳壇」の主力であるという感じでしょうか。

合評鼎談(大輪靖宏・筑紫磐井・櫂未知子)は今夜ではなく、日をあらためて話す部分ですが、ここで、お三方がそれぞれ選んだ30句の作者の年代を見てみると、「70代が大好き」(筑紫氏)という結果になったという事態と呼応しますね。

信治●はい、70代女性「この年代の女性の作品が今の俳壇を引っぱっているといっても過言ではない」(橋本榮治)そうですから。

天気●『俳句年鑑』のこの年代別収穫という部分、毎年毎年、世代で括るってのはどーなの?という人もいますね。

信治●序列の中に小序列があると「燃える」ということなんじゃないでしょうか、官僚や商社の人たちが、同期間の競争にあけくれるようなもので。

地位や名誉が、年代別に配分されることも、官僚や、商社の仕組みと、だいたい同じなのかも。

天気●あのね、2年前の俳句年鑑だったと思うのですが、20代・10代の作家のところで、谷雄介君と佐藤文香さんの名前を見たわけです。ネットではすでに少しやりとりがあった頃です。

で、年鑑で名前を見つけて、「へえ、俳壇で主要な作家と位置づけられてるんだー」と、これは別に皮肉でもなんでもなくて、驚いたことを憶えてます。

この年代別の記事に名前が挙がるのは、「俳壇の一員」という意味合いがあると、昔も今も思っています。 

信治●「年鑑」は、住所録・名簿として需要があるようですが、その中での扱いの大小ということですね。まさに、序列。俳人が序列に敏感であることは、メディア(または俳壇)の利益であるというか、存在理由であるというか。 

  無能無害の僕らはみんな年鑑に 高山れおな

天気●いずれにせよ、このコーナーの執筆者は、たいへんですね。「ほんとうにお疲れ様です」という、これは素直な気持ちです。誰を落として、誰を入れる、というのも、あるんでしょうし。

信治●ある20代俳人が、ある年の年代別執筆者から「今年の代表句を書いて送れ」という郵便をもらったそうです。彼は、自分の句とあわせて「こんな作家が、自分の周囲にはいます」という資料を作って送ったそうですが、それが反映されたかどうかは聞き漏らしました。

また、ある年の執筆者から聞いたのは、自分は、ともかく、目をつけていた作家の句を、結社誌まで全部読むことにしているので、たいへんだ、と。

天気●人によって、だいぶ書き方は違うのでしょうね。

信治●では、世代別、ページ順に、話を進めましょう。

天気●見出しを書き出してみました。

80代以上 言葉の光
70代男性 牽引する力
70代女性 不堪なき年代
60代男性 豊潤なる時
60代女性 六十の散財
50代男性 綺羅星のごとく
50代女性 花なら満開
40代   多様性の開花へ
30代   自分を超える世界へ
20代・10代 栴檀は双葉より

信治●毎年、わりと、このノリで、恐ろしいですね。

去年の「年鑑」の、20・10代「これら皆一騎当千の強者にて」、30代「駿馬のゲートイン」というのも、あいたたたた、というかんじでしたがw

天気●こう並べてみると、どうも、編集部というより、各執筆者がタイトルも付けているような気がしますね。

信治●だと思います。

天気●こうした見出しは、技術的にたいへん難しい。一年ごとに世代の傾向が変わるわけではないし、もともとひとことで表現できるようなものではない。それと一般的に、この手の「賞揚型」の見出しは、どうしても紋切り型で、空疎にもなる。

しかし、それにしても、なあ…という感じはあります。

まあ、開き直って、「トンデモ見出し」で笑わす、というサービス精神も歓迎なのですが。

信治●ちなみに、去年「駿馬のゲートイン」という題をつけた方は、今年、50代女性を担当されていてですね…

天気●…「花なら満開」。

ふきました。

信治●ひっくりかえりましたね。

天気●福永法弘さんです。確信犯? 天然?


■では年代別に好きな句を

信治●では、年代別に、一句ずつ、選ばせていただくということで、よろしくお願いします。

まず八十代以上から。

  やどかりの子のただよへる冬の潮  林徹

を、いただきました。

天気●やどかりの子。いいですね。

信治●やどかりの子供は、エビやカニと同じくゾエアという、4~6ミリほどのミジンコのようなものだそうです。

天気●私は、

  春ふかし鰥といふはさかなへん  八田木枯

信治●鰥は「やもめ」なんですね。初めて知りました。

天気●鰥は、春がいいです。季節に置くなら。「ふかし」がなんともいえず、いいです。

信治●七十代男性からは

  廃船の中も満潮春の星  今瀬剛一

天気●海つながりですねw。この句もいいですね。でも「春の星」をちょっと不満に思ってしまいました。

私は、

  雑巾を踏んでしまひし花吹雪  鈴木鷹夫

信治●花吹雪、おかしい。ほとんど、おもしろがってるといって、いいくらい。鈴木鷹夫さんは、

  豪華客船菠薐草も積みをらむ

も、おもしろかったです。

天気●そうそう。こっちと迷った。

信治●七十代女性。天気さんは、どの句を?

天気●一句なら、

  次の間へ噫ところがる青りんご  柿本多映

迷ったのが、

  春はあけぼのするするすると七十五  山口都茂女

信治●ぼくは

  キャラメルの網目永久なれ百千鳥  池田澄子

天気●70代女性、充実かなあ、実際。ティーンエイジャーとして終戦を迎えた世代?

信治●ということは、サザエさんと、ワカメちゃんの間くらいですか。

天気●そうですね。たしか、サザエさんは、終戦直後、東京に出てきて、新聞社に勤めるんでしたよね。だから、80代のはじめか。

信治●そう思って読むと、上の3句が、なんとも趣深いです。

では、六十代男性。ちょっと、選者の方と趣味が合わなかったのか、いただきにくかったのですが、

  にはとりに遠き渚や風光る  寺島ただし

天気●はい、私も困りました。選者の選んだ句が…というのは大きいかもしれません。この世代の記事が、というのではなく、趣味の合う合わないが、やはり大きいようですね。

私がいただいたのは、

  剪定の枝の落ちたる水の上  鳥居三朗

信治●諸家自選五句(p98-)まで、手をひろげれば、

  上下に抽斗左右に抽斗ナイアガラ  竹中宏

天気●おもしろいですね。でも、諸家自選五句まではカバーしてませんわw

この句は、ふだんの身のまわりの俳句世間や俳句総合誌だけ眺めていても見えてこないような句ですね。

信治●六十代女性。

  あぶらにはあぶらの甘み柿若葉  大木孝子

天気●私は、

  春の水貝を鳴かせてしまひけり  松本ヤチヨ

信治●「春の水」の句は、つかみどころがなくて、おもしろかった。

他にも、

  いつも空に触れてゐるなりかたつむり 宮崎夕美

  八月の正午ふたりの咀嚼音      村上喜代子

  散会のあとの座布団雪来るか     山尾玉藻

など、いろいろ。

天気●〈散会のあとの座布団雪来るか〉(山尾玉藻)。いいですね。〈あぶらにはあぶらの甘み柿若葉〉の季語、「柿若葉」が、最近、よくわからなくて。

信治●「柿若葉」は、光線の質感の呈示で、その、てらてら、つるつる動くかんじと、「あぶら」は肉の脂身ととりたいんですけど、その味、質感。その二者の相似とズレ(さわやかさの有無)ですね。

さらには、初夏ということで、健康な食欲を感じさせるということでしょうか。

天気●脂身と柿若葉の質感。納得しました。

信治●あの、ついでに、ちょっと。貝を鳴かせるは、春の水「が」と、とりますよねえ。

天気●はい。「春の水が」。神秘はない句です。

信治●じつは、天気さんぽい句だと思っていました。

天気●光栄。というか、松本さんに失礼かも。

ところで、この世代の執筆者、加藤かな文さんの書き出しの部分、「60代の女性は日本最強、時間があって、体力もある」という捉え方には、笑いました。笑うというのは、もちろん楽しんだという意味。ついでに言えば「カネもある」(笑。

信治●加藤さんの文は、だから、これからは、人生の全てを俳句に使ってくれ、という主旨でしたね。あれ、違いましたっけ。

天気●そう、散財しろと。これまでの蓄積を。

信治●はい。むしろ、降参させてくれ、というかんじで。

天気●これは、いいエールですね。

信治●五十代男性。これは、好き句。

  家中の箸静かなり夕焼けて   鈴木章和

天気●ここはおもしろく対照的なセレクションになりますね。

  桜が招く五十人の空飛ぶ法王  夏石番矢

信治●あの、民也さんの「レッドスネーク」にも似た…。

これは、例の連作の一句としての評価ということですか。

天気●いえ、評価なんて、おこがましい。ゴージャスということで。

信治●〈桜が招く五十人の空飛ぶ法王〉連作は忘れて、この一句だけというきもちで見ていたら、なんだか、良くなってきました。さすがなのかもしれない。

天気●好きな作家はたくさんいるんです、この世代の男性には。でも、なんかこう、句を選ぶとなると、ううん…となってしまいました。

執筆者(石田郷子さん)の記事に「編集部から五十代の男性作家のリストをもらって心底途方に暮れた。綺羅星の如く実力俳人が並んでいたのである」とあるように、セレクトの苦心は理解できますが、コメントつけてメインに取り上げた作家と、句だけ挙げた作家の振り分けにも、すこし首をかしげました。

まあ、これは、どう選んでも、万人が納得するラインナップにはならないので、ちょっとした疑問という程度ですが。

信治●50代女性。

  風船の色が気に入らないらしく  藤本美和子

天気●この句、軽くて、いいですね。吾子俳句だけど。私は、

  朝焼はホルンになりたがっている 夏井いつき

信治●ホルンの、好きでした。鳴りそうで鳴らない句。そうとうめずらしい。

40代は、取り放題でした。どうぞ、お先に。

天気●お先に、って、ずるいw。ええっと、取り放題なんですけど、私が「身内」と思っている人、近しく思っている人、あえてはずします(突然ですが)。

  籐椅子のまだ張つてゐる夜空かな  野中亮介

次もいただきたかった。

  石ふたつ入つてゐたる蝉の穴  高田正子

信治●じゃ、ぼくも、ここからそのルールで。

  底抜けに島晴れてゐるお年玉  櫛部天思

「お年玉」!

天気●はい、お年玉、いいですね。

信治●ほかに、

  慟哭はなべて腹這ひ春の雪    谷口智行

  ハモニカの吸つて鳴る音霧深し  小川軽舟

  夕焼のわけても移動遊園地    黛まどか

なども。

天気●今年のこのコーナーは40代がおもしろかった。実際、いい作家がたくさんいそうです。

信治●40代、選者は、山下知津子さんでした。

天気さんの選ばれた〈籐椅子の〉〈蝉の穴〉の句。ぼくは、ここまで具体的に書かれると、その「まだ」や「ふたつ」に実感がない、と見えて、そこが物足りなくなります。

天気●おっしゃりたいことはわかる気がしますが。

信治●30代。

  とんぶりをすくふ金色の柄杓  五十嵐義知

もう一句いただけたら

  胡桃割るプエルトリコがいま朝に 塩見恵介 

天気●ここも同じ基準で、近しい人は除くと、

  胡桃割るプエルトリコがいま朝に 塩見恵介 

あっ、はじめて同じ句があがりましたね。

信治●外国の地名というのは、ほぼ「人名俳句」、とは思いますがw

天気●人名のほうが「邪道度」が強いですが、まあ、近いところはある。この句、おもしろい感触。

むかし『週刊俳句』で、俳句研究の若手作家特集についてしゃべったときの句も、いくつもありましたね。

信治●はい、お名前を見ると、あ、あのとき、パスした人だ、とか。

天気●パスは憶えていませんが、おもしろいと思った句は、いくつか憶えていました。

30代、40代の作家群は、おもしろそうです。暴れていただきたい。俳句世間が文芸カルチャークラブのノリにならないよう、譬えて言えば、リングにあがるプロレスラーくらいのサービス精神と芸と気概をもって。

信治●20代・10代。

  ファーブル氏きっと腹這う冬の原  内田麻衣子

天気●ああ、こういう句は、私、まるっきりダメなんです。

信治●「ファーブル氏」、日常語がちょっと壊れただけ、というところが、好みなんですけど。ま、オシャレ系であることは、否めません。

ほかに、

  遠くからつぎつぎと咲き著莪のはな  岡田佳奈

  江の島の星の暗さよ猫の恋  斎藤慶一

天気●迷ったすえ私がいただいたのは、

  文旦が家族のだれからも見ゆる  高柳克弘

20代のところは、なんか微妙でした。うまく言えませんが、俳句世間の流れに、迎合とまでは言いませんが、寄り添おうとしている句が、数として目立つように感じてしまいました。選が、そういうふうになっているのか、この世代の作者たちがそうなのか、よくわかりません。

信治●平明、と、よく言いますが、今、俳句は内容がわからなければいけない、という抑圧がありますよね。内なる、なのか、上からなのか。

天気●「わかりやすさの無様さ」への意識が希薄なことから来るものかもしれません。これは、この世代がというより、むしろ全体的な大きな流れともいえますが。

信治●むずかしいところです。

天気●俳句からすこし離れ、また、こまかいことのようですが、20代・10代の見出し、「栴檀は双葉より」。これを若い人に使うのは初めて見ました。若い頃を振り返ってみて、使うでしょ。栴檀になるかどうかなんてわからない双葉に向かって、これを言うのは、かなりめずらしい。

信治●ま、筆者は「この格言は別の意味から言えば、若いときが肝要であるという意味にも受け取れる」というふうに、いちおうフォローをされて……いや、フォローというか、上塗りというか。

天気●この格言に、そんな意味は、ないw

信治●高柳克弘さんについて「嘱望の人である」とか……これじゃ、高柳さんが待つ人だということになる。いろいろ日本語がヘンですね。

天気●執筆者は山本洋子さんという方ですが、いたるところに、ヘンな作文が出てきます。まあ、それはいいとして、栴檀うんぬんを補足説明した締めの部分。「二十代、三十代、それは修練に一番適った時代といえる。ここを逃すと良い枝もあらぬ方向へ曲がったりする。わたしの、不器用ながらの経験から、そのことを思う」

経験から、とおっしゃるんだから、御本人が「あらぬ方向」へ曲がっちゃった、と読めてしまいますが、きっとそうではないんでしょう。気にかかるのは、なにか、こう、教条主義的な香りがすることです。

こういう視点、こういう作文で捉えられた「20代10代作家」の景色を信じていいものかどうか。とても不安になってきます。たとえば、洩らしてはならない作家を、この執筆者の教条・原則にそぐわないからという理由で洩らしている、ということがおおいにありそうで不安です。


■「年代別2007年の収穫」を読みおえて

信治●全体について、どうでしょう?

天気●ここに挙がっていない作家におもしろい人が少なからずいる、それが確信できる記事でした。これはどの世代にも。

信治●天気さんの言われる「確信」は、ぼくも同じことを感じました。「年鑑」に、同時代の俳句の全てがある、なんてことはあるわけがないのですが、それにしても。

「年鑑」がエスタブリッシュとして、なにかを排除しようとしている、というかんじもしなくて。それぞれ、筆者の方は、感じてらっしゃる「現在」に忠実なんだと思いますが、逆に、今年の俯瞰図を作ろうと思ったら、そうとう未来予測をふくめて描くのでなければ、見えてくるものはないんじゃないか、と感じました。

天気●俳壇(エスタブリッシュメント)が、評価の濾過機能を果たすものであることは周知ですが、「私」が愉しめる句を探すには、濾過後の水を眺めていてはダメだと、あらためて思いました。おもしろいものを読みたいなら、自分で探して、自分で読め、ということなのかな、と。

しかしながら、そう言ってしまうと、俳壇という秩序や媒体の意義・使い道がまったくなくなってしまう。信治さんのおっしゃるように、こうした「まとめ記事」には、なんらかの方策(未来予測)が必要なのかもしれません。

信治●では、そんなところで。次回は、合評鼎談その他についてお話ししましょう。



(つづく)





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