2008-03-09

【週俳2月の俳句を読む】 榊 倫代

【週俳2月の俳句を読む】
バサバサと火の中へ
榊 倫代



しろながすくぢらに「おお」と言ふ子かな   さいばら天気

子どもは総じて大きいものが好きだ。自分が小さいから、大きいものに憧れるのかどうかは知らないけれども、とにかく「大きい=かっこいい」。

図鑑を見ているのだろうか。上野の科学博物館の前にもいたような気がする。とにかく、世界最大の動物を目の前にした、万感の「おお」だ。そういう時、大人は「大きいねぇ」だの「何メートルぐらいかな」だの、余計な言葉がけをしがちだけれど、時には一緒になって「おおー」とだけ言ってみたい。感動(という言葉はあまり好きではないのだけれど)は、本来すごくシンプルな感情だ。

ひらがなで「しろながすくぢら」としたのも、よく回らない口で、鯨の名前を読み上げている子どもの様子のようで効果的。



あれこれを焼いてしまひし焚火かな   さいばら天気

あれやこれ、である。落ち葉や、枯れ枝や、芋を焼いてる場合ではないのである。

さて何を焼くか。焼きたいものはたくさんあるけれども、筆頭はやはり昔の手紙だろうか(ビスケットの空き缶に入れて、本棚の上に隠してある)。

引っ張り出してきて、バサバサと火の中へ。若くて愚かな青春時代よさらば、といきたいところ。で、あるが、実際に火に投げ入れることができるかは自信がない。火に入れた瞬間「しまった」と思うかもしれないし。

それでも、頬に焚き火の熱を感じながら、次々変わる火の形を見つめているうちに、気持ちは落ち着いてくるはず。水と砂をかけて、完全に火が消える頃には、きっと心は穏やかに。焚き火にはそういう力がある。



すこし泣く坂の途中の木瓜の花   さいばら天気

いい大人は、人目を憚らずに泣いたりはしないものだと、そんな思いこみでやせ我慢をしていた頃。坂の上の空はいやになるぐらい晴れていて、ふと見れば花なんかも咲いていたりして、ちょっとだけ泣いた。確かにいつか見た景色。木瓜の花が優しい。



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