【週俳2月の俳句を読む】
まさか楳図かずおの「へび少女」?吉田悦花
葱畑悼むに飽きてきたりけり 宮嶋梓帆
「悼むに飽きてきた」といっても、それは、非情でも無情でもない。「葱切つて溌剌たる香悪の中 加藤楸邨」の「悪」と「少年の放心葱畑に陽が赤い 金子兜太」の「少年」をどこかほうふつとさせるものがある。「葱畑」だからこその句ではないか、とも思う。決して乾いた句でも、冷たい句でもない。
蛇出でて前髪が気に入つてゐる 矢口 晃
蛇穴を出ることと前髪が気に入っていることは、なんの関係もないかも。軽やかに「気に入つてゐる」と述べたことで、明るさを醸しだしている。蛇と前髪から、まさか、楳図かずおワールドの「へび少女」や「赤ん坊少女」の少女タマミを連想する人はいないと思いますけれど(あっ、私だけ?)。
菠薐草に晩年の味ありぬ 神野紗希
「菠薐草」と「晩年の味」がいい。意外でもあり、ああ、なるほどと納得もする。ほうれん草は、私の好物のひとつ。子供のころ、お皿に盛られたほうれん草をひとりで平らげてしまい、よく母親から注意されました。とくに赤い根っこの部分が好きでした。「赤い根のところ南無妙菠薐草 川崎展宏」。
ラグビーの笛吹く人の走りをり さいばら天気
屈強な選手たちと一緒になって、または少し遅れて、選手のあとを追っている人。審判というのかな、それを「笛吹く人」と表現した。ただそれだけですが、どこかユーモラス。肩で息をしながら、笛を吹いているのだろうか? 選手ではなく、それを追う「笛吹く人」に注目した、脱力的なおもしろさ。
枯芝やちひさき犬のちらちらす 中嶋憲武
「土堤を外れ枯野の犬となりゆけり 山口誓子」は、長い堤防を走っていた犬が、野に下りて枯野の犬となった。川沿いの堤から、急転換して枯野へと至る映像的な句。一方、「ちひさき犬」に、大きな変化はない。「枯芝」をずっと「ちらちら」している。小さないのちのゆらめき。それが「ちらちらす」。
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2008-03-09
【週俳2月の俳句を読む】 吉田悦花
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