2008-07-06

【週俳6月の俳句を読む】陽 美保子

【週俳6月の俳句を読む】
陽 美保子
想像の楽しみ



明易や吊れば滴るネガフィルム   佐藤文香

ネガフィルムは暗室の中で現像液、定着液、停止液などさまざまな水をくぐって最後に真水で洗われ吊るされる。もうすぐできあがるネガフィルムの滴り。その滴りは、暗い水に浸っていた時間を思わせる。一滴一滴その時間を脱ぐように。暗室と夜がイメージの中で重なり、明易という季語が不動。そして、この「明易」の言葉のおかげで、多少エロチックなことにまで想像が及ぶのは読者の悪しき深読みか。


敵味方入り乱れたるシャワーかな   齋藤朝比古

高校生のサッカーか野球の試合が終わった後を想像する。試合後は敵も味方もなく一緒にシャワーを浴びている。シャワーを詠んでいるのだが、読者には男臭い汗の匂いと笑い声が充満してくる。シャワーという季語の持つ爽やかさをこれ以上巧く描くことは難しいかもしれないと思わせる。鷹羽狩行の句に、「シャワー浴ぶ同性愛の片割れが」という句がある。これも若い男性が対象と思われるが、かなり妖しい雰囲気。掲句の方が健全な青春の匂いがする。


人間に尻の大きさ草を刈る   望月哲土

しゃがんでいる人を見ると想像以上に尻が大きく見える。立っているときはさして自己主張しなかった尻がしゃがむと途端に幅を利かせる。これは男女を問わずそうであるが、やはり女性の方が目立つだろう。しかし尻が大きいのはなんだか幸せの象徴であるかのように見える。「炭を挽く女の臀の幸福に」という石田波郷の句があるように。人間、尻が大きい間はまだまだ大丈夫なんて草を刈っている人を見ながら作者は思っただろうか。



八田木枯「華」10句 →読む
佐藤文香 「標本空間」10句  →読む
齋藤朝比古 「縫 目」10句  →読む
望月哲土 「草」10句  →読む
大野朱香 「来し方」 10句 →読む
榊 倫代 「犬がゐる 10句 →読む

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