〔週俳8月の俳句を読む〕五十嵐秀彦
生きていると言ってみろ
8月の作品をどれも面白く読ませてもらったが、その中で西川火尖さんの「敗色豊か」が私には特に面白かった。
まずタイトルがよい。実に情けない題名である。
そして10句全体からそのタイトルのとおり「敗色」が漂い出ている。
まだ朝の蟻を摘んでをりたるに 西川火尖
家は出たものの、公園のベンチでなんだかぼんやりとしている。
足元の蟻が気になる。いや、気になることにする。
一匹つまんでみたりする。
今日も暑くなるなぁ・・・。いつまでもここにいるわけにもいかぬのに。
百日紅やはり稼がねばと思ふ 西川火尖
ベンチに根が生えてしまったように動く気になれず、そばに咲いている百日紅にもうんざりとしている。
だから、仕事に行かなくちゃならないんだろ。そんなことは先刻承知だ。
この公園は妙に閑散としている。子どもの姿も見られない。
大人も子どもも、それぞれ用事があるのか。公園でぼんやりしているのは、オレと百日紅だけ。いや百日紅はここでこうして咲いているのが仕事だな。
熊蝉や弁当売り等集まり来 西川火尖
公園の便所日焼の眼を洗ふ
結局、昼になってしまった。熊蝉がうるさくてたまらん。
こんなところにも弁当屋がやってくる。緑陰をさがし店開きだ。
財布を出して小銭を数える。
「別にどうということはないさ」と呟いてみる。
そんな呟きを誰も聞いていやしない。知っている。
この弁当売りのおばさん、時給はいくらかしらん。
木陰でノリ弁をボソボソと食べる。
昨夜の女の言葉を反芻しながら、それをオカズにして食べていたら吐き気がしてきた。
公園の公衆便所で顔を洗ってみる。
日焼けしたオレの眼球が「生きていると言ってみろ」と囁いた。
火尖さんの10句からこんな物語が浮んできた。「敗色豊か」というタイトルが意外と読みをリードする形になってしまった。タイトルってけっこう重要だ。
■ 西川火尖 「敗色豊か」 10句 →読む■ 山口優夢 「家」 10句 →読む■ 津久井健之 「蝉」 10句 →読む■ 中原寛也 「あなた」 10句 →読む■ 小林鮎美 「帰省」 10句 →読む■ 山田露結 「森の絵」 10句 →読む■ 関 悦史 「皮膜」 10句 →読む
■ 田口 武 「雑草」 10句 →読む
2008-09-07
五十嵐秀彦 生きていると言ってみろ
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 comments:
コメントを投稿